槍弓    BY椎名


       いつもと変わらぬ午後でした.。  2



※今更過ぎるアテンション。
この話はfate本編をベースにしてはいますが、時系列等に多少の矛盾が生じております。
仕様ですのでご了承下さい。







 結局、頻繁にアーチャーやセイバーのマスター達の拠点へ入り浸っていた事がばれて、ランサーは翌日からマスターに教会の屋根の上での見張りを言いつけられた。
 むろん、他のマスターと馴れ合うな、とかそんな聖杯戦争に参加している魔術師らしい理由などではなく。
 ぶっちゃけただのイヤガラセである。
 下らない命令で令呪を使わせる気か? と見下したその目が何とも楽しそうだったのを見るに間違いないだろう。
「……暇だ……」
小屋に繋がれた飼い犬宜しくちょこんと屋根の上に座り込み、むす、と溜息を漏らす英雄が一人。
小高い丘の上の教会の屋根からは、一望とまでは行かないが、ある程度冬木の街が見渡せた。
もっとも見を凝らしておらずとも、サーヴァントが動けば同じサーヴァントであるランサーには気配で分る。
 場所まではっきりと分かる程ではないが、少なくともこの教会へ向かって来れば嫌でも分るだろう。
 そんな訳で、平穏極まる街中において遊びに行く事も叶わず、ただひたすら遠く水平線の向こうに日輪の沈むを待つこの時間は、退屈を嫌うランサーに取ってはちょっとした拷問であった。
 滅入りそうな気分を紛らすように、手にしていた袋の中のクッキーを一つかじる。
 昨日アーチャーに振舞って貰った物の残りをちゃっかり頂戴して来たものである。
 それがこう不貞腐れて一人屋根の上で、というのは何とも間抜けではあったが、一日経って若干しけったクッキーは、それでも尚損なわれない香ばしさを誇っていた。
 これで後はこのクッキーの作成者特製の紅茶でも有れば最高なのだが、当然そういう訳にもいかず。
「あいつ、ひょっこり遊びに来たりしねぇかな」
 苦笑交じりにぽつりと呟いた。
 基本的には独り言を言うのは趣味ではないのだが、なんとなく口にしておかないと空しかったからというのはランサーだけの秘密である。
 もっとも、実際にこんな所で見張りなんぞして居るなどと知られれば当然マスターの居場所を知らせる事にも繋がりかねない以上、そうそう来られても困るのだが。
 気が付けば袋に入っていたクッキーは残り一枚となっていた。
 名残惜しそうに最後の一枚を口に咥え、空になった袋をくしゃりと小さく握りつぶすと、身体を伸ばしざまにごろんと屋根の上に寝転んだ。
 仰向けになった視線の先には、今にも降り出しそうな灰色の空。
 あと半刻もすれば一雨振ってくるだろう。
 そうしたら、気まぐれに雨に打たれてずぶ濡れになってみるのも心地良いかもしれない、などと思いつつ、強すぎない日差しの心地よさにランサーは目を閉じる。

 今でも鮮明に思い出す、彼との出会い。
 夜の学校で初めて合い見え、数秒の後には互いの獲物を交えた。
 第一印象はこの上ない程に最悪。
 交わした言葉は数える程だったが、あぁ、こいつとは気が合わないと直感した。
 果たしてその勘は概ね正しかったらしく、2度3度と会う毎に苛立ちは募る一方だった。
 決定的な価値観の相違、思想の齟齬。
 刃を交えて尚、敬意こそ見出せど親愛の情の欠片も芽生えぬ相手は珍しいと思った。
 
 あの日、突然彼から予想外の言葉を聞くまでは。

 確かそれは4度目ぐらいの会合だったか。
 敵地偵察を口実にした暇つぶしに、件の相手の主の家に何とはなしに通りかかり、やれこの家には他のマスターの使い魔が見張っているかも知れないのに良くくるな、だのよっぽど暇な様だな、だの何とか取り留めもない皮肉の応酬をしていたんだったと思う。。
 相変わらず友好的とは言いがたいアーチャーの物言いに、
「お前、相当オレの事キライだろう」
 と冗談交じりに言ったものの、内心では決して好かれてなどはいないだろうと思っていた。
 何せランサー自身が彼に対して好印象を抱いてはいなかったのだから。
 しかしそれに対しアーチャーは心底残念そうに肩を竦め、
「心外だな、これでも私は君にの事を好きだと自覚しているんだがね」
 なんて、ランサーの予想を遥かに超えた事を言った。
 あまりに予想外過ぎて、意味を理解するのには数秒を要し、それまでどんな話をしていてどんな経緯でそんな話になったのかもはっきり覚えていない位だったが。
「おい……一応聞くが、それってどういう意味での好きだ?」
 錯乱しかけた思考でどうにかそれだけ問うてみれば、やれやれと呆れた様子で溜息を吐かれた。
「君な、わざわざそんな野暮な事を聞くのか? 子供の会話じゃあるまいし天下の大英雄クーフーリンの名が泣くぞ?」
 なぜだかあっさり言ってもいない筈だった真名を言い当てられたショックより、そんな唐突な告白を受けた事の方がよほど衝撃的だったらしく、ただただランサーは真っ白にフリーズしかけた頭をどうにか動かそうと必死だった。
 もっとも自分の正体など、最初に対峙した時に感付かれていた節はあったのでそこまで驚きもしなかったのではあるが。
「……お前、いわゆるそっちの人か……?」
 じとりと嫌な汗を額に浮かべて恐る恐る伺うと、なんでかアーチャーははん、と鼻で笑った。
「まさか。いたってノーマルな趣向だが?」
「まてコラ、今さっきそういう意味で俺の事好きって言ったろうが」
「君は特別だ。それぐらい分れ。たわけ」
 神様。お留守じゃないならこいつどうにかして下さい。
 訳の分からない疲労感でぐったりしていると、アーチャーも流石に気まずそうに腕を組んで目を明後日の方向を向いた。
「まぁ、何だ、別にだからといってどうして欲しいという事ではないから気にするな。聞かなかった事にしたいというのならそれでも構わん」
 その物言いが妙に癪に障って、ランサーはむっと不機嫌そうに眉根を寄せた。
「何だよそれ」
 返答次第では拳で語らう事も辞さない覚悟で軽く睨み付けると、アーチャーは丁度干していたタオルの最後の一枚を取り込み終えた所だった。
 言い忘れていたが、このやり取りがまさに今アーチャーが日が暮れる前にと洗濯物を取り込んでいる真っ最中の遠坂邸の庭での一幕だというのだから、この館に人避けの結界があって本当に良かったと後々アーチャーが感謝したりしたのだが、それはまぁここだけの話である。
「言葉の通りだが? 私は君に何の見返りも求めていなければそんな権利もないのでな」
 ごそ、と満杯になった洗濯籠を抱えて、用がないのなら帰れとだけ告げてとっとと部屋に戻ろうとするアーチャー。
 しかしそれを呼び止める気にもなれず、ただただその背が部屋の奥へ消えて行くのを睨み付けて見送った。
 そして気付く、最大の苛立ちの原因。
「……なにイラだってんだよオレぁ……」
 知らず、舌打ち一つ。
 どうがんばっても相容れぬであろうと思っていた相手から突然告げられた思いは、正直今は消化不良で戸惑いしか無いけれど。
 戯言と切り捨てて仕舞えば良い物を、何をそんなにイラついているというのだろう。


 ぼんやりとした思考は、意思を持って接近してくる気配で停止した。
 寝たふりでもしてみようかと思ったが無意味だと気付いて、ランサーはゆっくりと閉じていた目を開いた。
「よ、お前からこっち来るとはな。よくここが分かったじゃねぇか」
 あまりこの場所には来て貰いたくなかったのだが、来てしまった物は仕方がない。
 警戒する素振りも見せずにランサーの寝そべっていた教会の屋根に、アーチャーはランサーを見下ろす形で立っていた。
「何だ、ひょっとしてわざわざ探しに来てくれたのか?」
 からかい半分、見つかった事への誤魔化しも半分で言ってみれば、いつもと同じ皮肉な顔が返ってきた。
「いや、あまりにも間抜けな寝ぼけ面が見られそうだったのでついな」
「あっそ。言っとくが、俺の寝顔は高ぇぞ?」
 欠伸を噛み殺しつつ、ランサーは自分を見下ろす相手の顔をじっと眺めてみた。
「……なんだ」
 やはり長時間視線を合わせるのは気まずかったのか、額に一筋汗を浮かべるアーチャーに、ランサーは彼にしては珍しい柔らかな笑みを浮かべて小さく息を吐いた。
「いや、ちょっとな、俺が何でお前を好きなのか思い出してた」
 口元に浮かんだは苦笑。
 そっと頬に手を触れて見ても、アーチャーはぴくりとも動かず真っ直ぐにランサーの目を見据えた。










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