ケーキを作ろう (イラスト:ペキ 文:椎名)


ある日の衛宮家の台所。

「あーもう上手く出来ねー!」
慣れない手つきでボウルの中の生クリームをホイップしている男が一人。
頬に付いたクリームにも気付かず、一心不乱に泡立て器を握る手をせわしなく動かしている。
オーブンの前では、焼き上がったスポンジを取り出してため息をつく弓兵。
「…しぼんでる…」
どうやらあれほど言ったのに生地の混ぜ方が甘かったらしい。
それを見てやり直しかーと落胆するランサーに、アーチャーも思わず苦笑した。


ケーキの作り方を教えてほしい。


そう言ってランサーがアーチャーにケーキ作りの指南を求めてきたのは今朝のことだった。
まぁ別に断る理由もなかったので、自分もこうして材料の買い出しから付き合って居る訳なのだが。

「んー…どうも難しいなー…なんかコツとかあるのか?」
「全体的に雑だ。もう少し丁寧にかつ空気が入るように手早く混ぜるといい。」
「ふみゅ」
ようやく顔に付いたクリームに気付いたのか、ランサー手の甲で拭いながらおかしな返事を返した。
泡立て器の扱いも大分様になってきたようだ。


「しかし何で急にケーキを作りたいなどと…」

ランサーはなんとか程良い堅さにホイップされたクリームを、少ししぼんだスポンジケーキに塗りたくるのに苦戦していた。

その様子がやたらと一生懸命だったから。

なんとなく理由は聞かなかった。



結局、もう一つスポンジケーキを焼き直すことになり。
「あぁ、こねるんじゃなくてだな。生地はこうヘラで切るように…」
「む…こうか?」
珍しく素直に言うことを聞いて指導を受けるランサーというのも天然記念物モノかもしれない、などと思いながら
「…難しいなら私が代わろうか?」
ボウルをがったんがったん言わせながら生地を混ぜるランサーに、見ていられないとばかりにアーチャーが申し出る。

が。

「ばーか。お前がやっちゃ意味ねーの。」

ランサーはきっぱりと断った。
あくまでも指導だけを望んでいるらしい。
「そうか?」
だからアーチャーも、それ以上は手出しをせずに、黙々と生地を混ぜるランサーを見守った。
その甲斐あって、二度目のスポンジケーキはなんとかしぼまずに、不格好ながらも上手く焼き上がったようだ。


「うっし! 完成っと!」
スポンジケーキに生クリームを塗り、バランスよくイチゴを乗せ。
どうにかオーソドックスなイチゴのショートケーキが完成した。
満足気に汗を拭うランサーに、アーチャーは先程からの疑問を投げかけた。
「それにしてもお前がケーキを作るとはな。今日は何かあったか?」

ランサーは一瞬は? と間の抜けた顔でアーチャーを見上げ、やがて腹を抱えて笑い出した。
「…何がおかしい?」
心外だと言わんばかりのジト目で返したアーチャーに

「何って…だって今日お前達の誕生日だろ?」

当然だと言わんばかりのランサー。


「…誕生日…」
そんな単語を耳にしたのはどれぐらいぶりだっただろうか。
「いやいや、お前なら全然気付かないでケーキ作り教えてくれるって言われてなー。嬢ちゃんの言うとおりだったな」
どうやらやはり黒幕はあの赤いあくまらしい。
「でもホントに気付かなかったのかお前? 超・鈍感。」

「超鈍感…」

自覚していた事ではあったが。
ランサーに言われた事でショックが割り増ししたようだ。

うなだれるアーチャーに、ランサーはふぅ、と小さくため息を付いてケーキを差し出した。
「食ってみてくれないか、これ」
最初に作った歪にしぼんだスポンジで作った方のケーキを。
「最初に作ったのはさ。お前に食べて欲しかったんだよ」
何となく照れくさそうに頬をかきながら。
「・・・・・」
「なんだよ、嫌なら別にいいんだぜ?」
失敗作だし、と皿を下げようとしたランサーを、アーチャーは首を横に振って制止した。
「いや、頂戴しよう。」
せっかくだから紅茶を淹れようと立ち上がったアーチャーに。

「あぁ、そうだアーチャー」
「なんだ。」
「誕生日おめでとう。」

一瞬、目をぱちくりさせた後、アーチャーはそそくさと紅茶を淹れに行った。


「来年は…もうすこしマシなものを作れるように精進しろ」

背中を向けたままでも、なんとなく嬉しそうなのが解って。
あぁ、自分の作った物を食べて貰うっていうのも結構いいもんだな、などと思いながら。
ランサーはようやく身に付けていたエプロンを外した。



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