日記掲載ネタ〜槍弓編〜 2


5 (ペキ)

つながる手と手。
連なる影と影。
君と並んで歩く、道。


ランサーがその光景を目にしたのは、正午をちょうどすぎたあたり。

道をたくさんの子供達が、行儀よく並んで歩いていた。
上から下まで年齢層もばらついた子供達が、隊列を組んで進む。
周りには幾人かの大人達がそれに付き従う。
時折あたりを指差し確認しながら、少し真剣に、そして楽しげに。
隣り合った者達と、手をつなぎながら。
行進は進んでいく。



結局、ランサーはその行進が目前を通り過ぎるのを、最後まで見届けてしまった。

彼が帰宅までにそんなものを見たのが、もう2.3度。





「なーなー」
「……何だ?」

帰宅後、すぐに無理やりにタイムセールの買出しにつき合わされたというのにえらく上機嫌なランサーを不振に感じつつも、アーチャーは返す。

大分日の傾いた中、戦利品を片手に二人帰る道で。

隣に並んだ蒼い男は、その長身に似つかわしくない行動に出た。


きゅ。


「……なっ!?」


絡まる、指と指。
買い物袋が少し邪魔ながらも、伝わる温かさ。
つながる、手。


「……何をする!?」

アーチャーはとっさに、その手を振り払う。
そのあわてようも、無理もない。
人目の多い道の真ん中で白昼堂々と男同士で手をつなぐなど、いかな蛮勇であろうとおいそれと出来る行為ではなかった。

しかし、そんな行動を取った当の英雄は振り払われた手を不満そうにしながら

「え? だめだったか?」

等と平然と聞いてくる。

「ダメも何も、一体何を考えているんだお前は」

わずかに紅潮した顔を隠すように、憮然とした表情を浮かべて問うアーチャー。
そんな問いに、不思議そうな顔をしながらランサーは返した。

「いや、今日は手をつなぐ日かなんかじゃないのか?」
「……?」
「だってよ、帰る途中にさ……」

そう言って、彼は自分の見た光景を話す。
並んで歩くたくさんの子供たち。
それに付き従う大人。
隣同士つなぐ手。
楽しそうな、その笑顔。

「……てわけで、てっきり俺は手をつなぐ日なんだなーと」
「……どうしてお前はそう、極端に変則的な発想と結論しか出来んのだ……」

あまりの発想の突飛さに、眩暈がした。

「……ソレは、集団下校というものだ。
 今日は防災の日だからな。 災害時の避難訓練のようなものだ。
 手をつないでいたのは隊列を崩さないためだろう。周りの大人は、下校を見届ける親か教師だ」
「へー、アレが訓練ねえ。
 どうにも、楽しそうに皆で一緒に行進してるようにしか見えなかったぜ。
 俺の故郷じゃ、災害時の訓練てぇのはもっと緊張感のあるものだったけどな」

あのくらいの歳でも、な。

そう続けるランサーに、

「……この国は、平和が長く続いているからな」

失笑を浮かべつつ、アーチャーは答える。
確かに現在集団下校をするような年頃の子供たちにとっては、せいぜいが「皆一緒に下校する日」ぐらいの認識だろう。
ソレはこの国の平和さ――そして同時に、無防備さの表れでもあった。

「ふーん、ま、いいんじゃねえの?
 平和が長く続いてる中で、訓練しようって言う心構えは大事だしな。
 もっともあのくらいのガキじゃ、自分達が何してるかなんてわかっちゃいないだろうけどな」
「そんなガキの真似をするお前の行動の方が、理解しがたいがね」

アーチャーはこめかみを押さえながら、さっさと買い物袋を持ち直して止まっていた足を動かし始めた。
ランサーも、後に続いて歩き出す。

「んー、まあ、手をつなぐ日って言うのは半分冗談だけどよ。
 ……なんつーかさ、たぶん

 ――うらやましかったんだよ」


伝わるぬくもり。
一つになる影。

ただ純粋に、自分も彼と手をつなげたらなと。
そう思ったゆえの行動。

手を、つなぎたかったんだ、とランサーは言う。

「……たわけ」

アーチャーはそう小さく吐き捨てて、先ほどにも増して家路を急ぐ。
その背にかかる、すねたような声。

「しょうがねえだろ、つなぎたかったんだから」

そんなに怒ることないだろ。
結構一緒に居るんだから手ぐらい!
つうか俺の事実は嫌いなのかやっぱり!?

そんな背後からの声を黙殺して歩き続けるアーチャーに、少しへこみ始めたランサーの口数が大分減った頃。

人気がほとんどなくなった交差点で、初めてアーチャーは振り返った。
そして、黙ったまま手をランサーのほうへと差し出す。

「へ?」

「……手を、つなぎたいのではなかったのか?」
「え? マジ? いいのか? ていうかなんで?」

驚きのあまり、わたわたとうろたえるランサーに、

「人気が少ないところでくらいならば、譲歩してやるまでだ」

出来るだけ憮然とした表情を心がけながらアーチャーは返す。

そんな人目を極めて気にする彼の、小さな了承に。
ランサーは満面の喜色を浮かべて、愛しい彼の手を取った。



つながる手と手。
一つになる影。
伝わるぬくもりと想い。
温まる指先と心。

愛しい人と、並んで帰る道。


結局ランサーが上機嫌に腕を振り回しすぎたせいで、家に着く前にはアーチャーに再び手を振り払われてしまったが。

それでも指先に残る温かさだけは、しばらくの間双方に残っていた。





6 (ペキ)

喧騒と混雑の中。
ホームに滑り込むように入り停車した電車のドアが開く。
ちょうど正午頃という時間帯のせいか、車内は思ったよりも空いている。
わずかながらも降車する数人の客がおり終わるのを見届けた後、アーチャーは車内に乗り込んだ。

と。

ごん。
「痛っ」

鈍い音にアーチャーが振り返ってみれば、そこには額を押さえている男が1人。
どうやら、頭を入り口上部にぶつけたらしい。
電車に限らず、公共機関の出入り口は約180センチを基準に作られている。
それを軽く越えるアーチャーもランサーも、かがまねば当然、

「うー、痛ぇ」
「……間抜け」

こういう結果が待ち受けている。

しきりに額をさすりながら、閉まるドアにあわてて乗車してくるランサー。
しかし、仮にも英雄と呼ばれた男が、目測を謝って入り口に額をしたたかにぶつけるというのはいかがなものか。

「日頃から抜けている抜けているとは思っていたが、まさかここまでとは思わなんだ」

周囲の乗客の押し殺したような笑い声。
身内に向けられたそれを少しでも払拭するかのように、注視されるのがひどく苦手な褐色の片割れは皮肉を吐く。
当の本人は、相当派手にぶつけたらしく、少し赤くなった額をまださすりながら、

「いや、だってお前の背中しか見てなかったもんだから」

そんな、ある意味額を強打する以上に恥ずかしいことを言ってのけた。

「……だったら、私がかがんで乗車したことぐらい気づけ、たわけが」
「あ、そか」

そういや、なんで気づかなかったんだろうなーなどと、お世辞にも小声とは言えない声量でいぶかしがるランサーに、アーチャーは背を向けてさっさと空席に座った。
自然続いて隣に座ろうとしたランサーに

「……お前は離れて座れ」

と、弓兵は若干顔を赤くしつつ言い放つ。

「何だよ? せっかくあいてんのに」
「お前が隣にいるのは、恥さらしもいいところだ」
「嫌だね。 俺はここがいい」
「……ならば私が移動する」
「っだー! だから、俺はお前の隣が良いんだって言ってんだよ!」


結局、こうやって大声ですがるランサーとのやり取りの方がよっぽど周囲から注目されているという事態に気づいたのは、アーチャーが観念してランサーが隣に座るのを許した後だった。





7 (椎名)

「ランサー。」
「んー?」
振り向けばかすかに漂う甘い香り。
「…ケー、キ?」
そう。
アーチャーが手にした皿の上に乗っている白く円柱形は紛れもなくイチゴのショートケーキである。
「何だ?昨日食べたばっかりだろ?俺が作ったやつ。」

アーチャー、もとい衛宮士郎の誕生日を祝いたいと、アーチャーに(半ば騙した形で)習いながらケーキを作ったのはつい先日の事。

ジト目で見上げるランサーに、なぜかアーチャーは目を合わせようとはしない。

「…食べないのか?」
「いや食う!絶対食うけど!」
慌てて皿を受け取る。
しかしなんで昨日の今日なのか。


「それに…私はお前の誕生日を知らないのでな…聞くのも面倒なので勝手に今日作った。」

「…あ。」
アーチャーはやっぱり目を合わせようとはしない。

「それって…遠回しに誕生日教えてくれって事か?」

「!たわけっ!食うならさっさと食え!」
言い捨てて、アーチャーは昨日と同じ様にそそくさと紅茶を淹れに行った。

「誕生日か…」
そんなものなど、とうに忘れて久しいが。
「まぁ、今日ってことでいいか。」
呟いてランサーはアーチャーが戻ってくるのを大人しく待っていた。




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