日記掲載ネタ〜槍弓編〜 4
12 (ペキ)
何の因果か、新手の嫌がらせか。
「何してんだよ、アーチャー! コッチだぜ!?」
何が悲しくて、野郎二人連れで水族館に何ぞ来なければならないのか。
しかも、相手はやたらとはしゃいでいる。
あまり大声でこちらを呼ぶな、馬鹿者が。
今日一日のこれからを思うと、知らずため息が出た。
どこで手に入れたのか、ランサーが水族館なんぞの割引チケットを手に入れてきた。
しかも、ペアで。
凛と士郎にでも(気に食わないが)行かせれば良いと言ったのだが、ランサーは「せっかくだからお前と行きたい!」などと例によって駄々をこねた。
しかも、気に食わないことに凛も士郎も「せっかくだから二人で行って来い」等と無理やりに追い出してくれた。
あれは確実に嫌がらせだ。特に凛は、明らかにあくまの笑みを浮かべていた。
大体、こんなもの家族連れか男女で行くものだろう。
だというのに、いかに自分が回りから浮いているのか気付いているのかいないのか。
「アーチャー! 展望台のチケットも一緒で良いよな?」
喜色満面で聞いてくるのだから。
……不覚にも、そんなコイツを置いて逃亡する事ができないのだった。
「うっわすっげー! うまそー!!」
「……開口一番それしかいえないのかお前は……」
まあ、入って早々に出てきた水槽がマイワシでは、その気持ちもわからなくもない。
一番初めの水槽にマイワシを持ってくるあたり、ここの水族館のレイアウトを少し問い詰めたくなった。
と、ランサーはもうすでに次のものに興味を示している。
「すげー! これイルカって言うんだよな? 初めて見たぜ」
「初めてか。何となくお前はイルカにでも乗っていそうな気がしたがな……」
「は? なんでだよ?」
「……いや、気にするな。戯言だ」
そもそも、私はリアルタイムでそれを見たことがないので、単なるイメージでしかない。
「よし、次行こうぜ、次!」
「別に私と一緒でなくても良いだろう? 自分のペースで見れば……」
「それじゃ一緒に来た意味ねぇだろ」
そういって、こちらを無理に引っ張って進む。
その強引さにあきれながらも、しぶしぶと付いていった。
周りの意識が水槽に向いており、男同士手をつないでいるなどという光景に気が付かれなかったのは幸いだった。
「へーコレが"流氷の妖精"クリオネか〜」
「何だ、知っているのか?」
「いや、前にテレビで見たことあってな」
この水族館の目玉の一つらしい、ディスプレイのわりに小さな水槽を覗き込みつつランサーは返す。
「けっこーかわいいな。さすが妖精だ」
「クリオネは流氷の天使とも呼ばれているな。そのヒレのような部分を動かして泳ぐ様が羽に見えるのだとか」
「あーなるほど、わかるわかる。俺はそっちの方がしっくり来るなー」
かわいいかわいい等と女子高生の様に騒ぐ姿を見ていると、何とはなしにいたずら心がわいてきた。
「しかし、そう見えてもそいつは肉食でな。 エモノを捕食する時は頭部が二つに割れ、中には細かい歯と触手がびっしりという中々壮絶なものなのだが」
「げ。……マジ?」
「マジもマジだ。そこに標本があるだろう?」
「うわ。天使かと思ったら、エイリアンだったのかよー……」
先日ビデオで見たものでも思い出したようだ。
先程までのかわいい連呼はどこへやら。目に見えて意気消沈していく様はなんとも飽きない。
「見かけで判断するなといういい例だ」
「まあな。表面上は冷たいけれど、実はかわいいやつとかもいるしなー」
「……あえて何のことだか聞かないでおこう」
「んー? 聞きたいか?」
その声を無視しつつ、順路の階段を上がっていく。
あわてて付いてくる気配に、苦笑する。
なるほど、1人でゆっくりと観察しつつ巡るのもいいが、このような会話は二人でなければできない。
……たまには、こんな掛け合いのある展示場めぐりもわるくないかもしれない。
思ったよりも水族館自体の全長は短かった。
全部をくまなくゆっくりと見てまわったつもりだが、それでもざっと一時間半といった所か。
流石にビルの屋上に建築されている以上そこまで大規模になるわけもないが、少し物足りなかった。
まあ、料金も安めであったし、妥当といえよう。
しかしながら、順路の最後に休憩所とみやげ物を持ってくるあたりはさすがというか何と言うか。
「アーチャーアーチャー! ジェラートとか売ってるぜー!?」
そして、罠にはまっているランサー。
さっさと注文しに走る彼に、仕方なく辺りのテーブルに着くことにした。
数分後、ジェラートを片手にいそいそとやってくる。
お前それでも英霊か、それ以前に男性としてソレはどうなのか。
そんな私の心境など露知らず、当の本人は「あ、うまい」などと言いつつ、ジェラートを頬張っている。
……それが、あまりにもおいしそうに食べているものだから。
「……うまいか?」
思わず、聞いてしまった。
「ん? 食べるか? ほい」
と、スプーンをこちらに持ってきて「あーん」等とほざく。
やると思った。やると思ったがまさかホントにやるとは。
「誰が食うか!?」
顔を紅潮させながら言うと、
「あのなー、こういうのって、そうやって恥ずかしがってる方がよっぽど恥ずかしいんだって気付けよ、いいかげん」
などと、ヤツのほうが呆れ顔で言ってくる。
む。
言われてみれば、そんな気がしなくもない気が……?
「だから、ほれ」
私がその言葉を吟味する間もなく、再びスプーンが差し出される。
仕方なく、それを口で受け取った。
「む、確かにうまいな……」
程よい甘さと、思ったより濃厚な味わい。
多少溶けかかっていたが、水族館で出す割には随分と本格的だ。
値段もそれなりに安価であるし……。
と、目前にニヤニヤと笑う、顔。
「? なんだ?」
「いや、関節キス」
「なっ!?」
「ははは。恥ずかしがるがらないの問題じゃないって少し考えりゃ分かるだろーに。
アーチャーって肝心な所で抜けてるよなー。お嬢ちゃんと同じ?」
「それ以上口を開けば殺すぞランサー!?」
「やー役得役得。美味かったぜー?」
「死ねっ!?」
どうやら、槍兵にまんまとしてやられたようだ。
そう、少し考えれば。
このやり取りの方がよっぽど恥ずかしいと、気付けそうなものなのに。
冷静になるまでの数分間、たっぷりと土産物屋と軽食販売の店員に醜態をさらしてしまった。
出口を抜けると、そこは水族館の入り口と合流していた。
そこには最後の散財トラップとも言うべき、くじ引きのワゴンが鎮座している。
そして、言うまでもなくあっさりと引っかかる男が1人。
「へえ、面白そうじゃん」
はずれくじなし、景品はイルカのぬいぐるみが一等から三等まで、大中小。
値段的にも、それほど損ではないが……。
「おねーさん、2回な」
だから、さっさと私の分まで買うな馬鹿者が。
「手を入れる場所二箇所あるから、二人で同時に引いてみようぜ?」
「……」
もう、反論する気も起きない。
律儀に手を突っ込んだまま待っているランサーに、自分もしぶしぶ手を入れる。
大の男二人が、同時にくじ引きに手を突っ込む光景。
ああ、想像するまでもなくなんて無様。
さっさとくじを引っつかみ、手を抜く。
「……二等だな」
「お! 一等だ!」
「おめでとうございます!二等はこちら、一等はこちらになります。
色はどうなさりますか?」
「えーと、ちっさい方赤、大きい方青で!」
「どちらかというと、赤というよりピンクだろうに……」
私の声が聞こえているのかいないのか、嬉しそうにイルカを受け取るランサー。
そして、青い大きな方をこちらに放る。
「そっち、お前のな!」
「? お前が一等を当てたのだから、こちらがお前のだろう?」
「いーのいーの! こっちの赤いが"あーちゃー"だから!
ぬいぐるみくらい、ちっちゃくしてもいいよなー。……ホントは俺の方が小さいけど……」
つまりは。
こちらの青いほうが"らんさー"という訳か。
「……たわけが……」
「いいだろ別に、抱き枕にちょうどいいじゃん?」
確かに、クッション代わりにはなりそうだ。
……抱いて寝るかは別として。
だがしかし。
「待て。お前、コレを私に抱いて帰れというのか!?」
この、等身大のイルカのぬいぐるみを!?
それこそ、何の罰ゲームだ!?
「えーなんだよ、いいだろ? 俺も抱いて帰るからさー」
「貴様のような面の皮が厚いヤツはいいかもしれんが、あいにく私は一般的な神経の持ち主なのでね!
両方お前が抱いて帰れ!」
「それこそ物理的に無理だろー? 両手ふさがっちまうもん。せめてどっちか片方持てよ」
「御免こうむる!」
「お客様、袋にお入れしましょうか?」
そういって、プロ根性なのかなんなのか。
平然として笑顔で袋を差し出す店員の女性の姿が、私にはクリオネなどよりよっぽど天使に見えた。
遅めの昼食を済ませて、地上六十階の展望台に上る。
外はあいにくの曇り空で、少々光化学スモッグも発生しているようだった。
しかし、人の入りはそこそこであるらしい。
外のデッキ(と呼ぶよりも、どうにも単なる屋上だったが)に足を運ぶと、カップルと親子連れがまばらに見えた。
「まあ、絶景とは言いがたいけど、いい眺めではあるな。夜だともっとキレイそうだ」
「……そもそも、私たちはわざわざ金を払わずとも、この程度の場所なら上ってこれるだろうに……」
「いや、ちゃんと金払ってくるのがいいんだよ。せっかくのデートコースなんだし」
ビル風に髪をなびかせながら、ランサーは笑う。
「で、どうだったよ?」
「? どうだった、とは?」
「だから、デート。 普通の奴等みたいにやってみたけど、……楽しくなかったか?」
そういって、こちらを覗き込む。
顔は笑ってはいるが、少し恐る恐る、といった感じの口調。
……なるほど、今日は彼なりの「普通のデート」のつもりだったらしい。
ソレはたぶん、私がまだ求めることに躊躇いを抱いている「普通」という日常を、彼なりに追求しての事。
存在そのものがおかしな私たちが『普通』な事をできる訳などないのだが。
「……ああ、悪くは、なかったな」
こんな波乱に満ちた「普通」も、なかなか、悪くない。
「うっしゃ! じゃあ、又来ような!」
「……考えておこう」
今度は、夜にでもこっそりここに上ろうか。
「普通」ではないかもしれないけれど、ソレはそれで、私たちらしいと思う。
13 (椎名)
「どうしたランサー、なにか珍しい物でも映っているのか?」
「なぁ、アーチャー、この男みたいな女ってゲイノウジンなのか?」
「ん?あぁ、男みたいな女ではなくて男だ。」
「え!?そうなの!?ていうかこの歌微妙に可愛い!?」
「ふむ…否定はしないが。」
「ふーん、ゴ○エちゃんっていうのか?こういうのが流行ってるんだな。」
「・・・・・やるな。それからやらせるな。」
「うぉ!?なんで分かった!!?以心伝心!?」
「たわけ。」
14 (椎名)
「どうしたランサー、なにか珍しい物でも映っているのか?」
「なぁ、アーチャー、昆布が海のなかでダシが出ないのってなんでだろうなー?」
「ダシとなる養分を吸収している段階だからだろう?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「正論はいらねー!!!」
(だがしゃーん!)
「な!それは伝説のちゃぶ台返し!?そんな技どこで仕入れた貴様!」
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