日記掲載ネタ〜槍弓編〜 6


18 (ペキ) ※後半が槍弓寄りのなってます

衛宮家居間は、惨憺たる有様だった。
いつもの整然とした――何しろ余分なものはおろか塵一つないのだ――風景からは想像も付かないほどに、ごちゃごちゃと布と紙とであふれかえった空間。
足の踏み場もないとは、まさにこのことか。

帰宅したランサーが思わず立ち尽くしていると、一際布山が集中している所から、

「貴様、何ぐずぐずやっている! そちらのパーツを早くよこさんか!」
「うるっさい! 今やってる! お前こそそれさっさと終わらせろよ!」
「あーっもう、桜、これまかせた!」
「ええっ!? 姉さん、ソレは自分でやってください! ずるはいけないです!」

等と、随分と切羽詰った半ば罵声になりつつあるやり取りが聞こえてくる。

男女4人。
この衛宮家居住者の家事スキル所有者が全て、一心不乱に何かを縫っていた。
それも必死の形相(無論、それを見たものが必ず死ぬと言う意味での必死)で。

時刻はすでに夕餉の頃。
普段ならとっくに食事の準備が整っているはずだが、この様では到底ソレは期待できない。
ちらりと横を見やると、壁際に布に居場所を追いやられたらしいセイバーとイリヤが、ちんまりと座っている。
元々小さい二人だが、所在無さ気なその様子が、二人をさらに小さく見せていた。
特に、セイバーのひもじそうな姿は、見るものの憐れを誘う。

しかし、食事を作るべき人物達は、その二人の姿に気付かないほどに一心不乱であった。
当人達に、うかつに「なにやってんだ?」と訊こうものなら、何となく血の雨を見そうな気配すらする。
仕方無しに、壁際を移動し、事情を知っていそうな二人の隣に座った。
何となく、体育座りで。

「明日、文化祭だから」

見た目とは裏腹に、時に一番の冷静さを見せる白い少女が事の顛末を話してくれた。
ちなみに、王様は空腹と理性の限界にチャレンジ中。

明日明後日、士郎たちの所属する「学校」とやらで祭が行われる。
「生徒」たちが主催するので、もちろん士郎たちも主催者側。
演技やら飲食物販売やらと色々と興味深い出し物があるらしい。
現在彼らが必死で作っているものは、士郎達の学年の有志が行うものの衣装だとか。

「で、なんで今になってそんなモンやってるんだ? 準備って、もうちょっと前からやってただろ?」
「何でも、タイガが……」
「あ、言わなくていい。何となくわかった」

その名前が出てくるだけでも必然、何かしらのトラブルがあったのだろうと推測できる。

「しっかし、この布の山を、全部今日中に服に仕立てるつもりか?」
「そうらしいわよ。 他の人の分も引き受けたらしいわね。 全く、お人よしなんだから」
「……ってえことは、俺らの夕飯は……」
「まず、諦めた方がいいわね」

そのセリフに、騎士王はビクリと一つ痙攣した後、ぱたりと倒れてしまった。
もう二度とおなかのすくことのない世界へ、旅立ったのかもしれない。
合掌。

残った白と青の二人は、布山のほうを胡乱気に見やる。
そこは相変わらずの戦場。

だけれども。

「なんかちょっと、楽しそうだな」
「そうね。 多分、この追い詰められていうる状況も、祭の一部なんでしょ」

どこか切羽詰りながらも楽しそうなその姿を見てしまっては、明日の祭りの期待は否応なしに高まると言うものだ。

「さて、仕方ねえ、何か軽くつくってみっか」
「あら、ランサー、料理つくれるの?」
「イヤ、全然。 でも米炊いて握り飯作るくらいはできるだろ。
 ……ほら、セイバー、呆けてんな。 それくらいお前も手伝え」

そして、腹ごしらえと差し入れ作りが終わったら。
祭の手伝いを申し出てみるのもいいかもしれない。

そんなことを思いながら、ランサーはキッチンへと向かった。

祭の前夜は、まだ始まったばかり――






19 (椎名) ※18の続き

翌朝の衛宮家も、昨日の夜(正確に言えば一晩中)と変わらない慌ただしさだった。

「ふー…なんとか仕上がったな…ってあーもうこんな時間じゃないか!朝ご飯なんか食べている時間ないなー…」
「く…アーチャー…紅茶入れてくれる?」
「了解したマスター」
「先輩!セイバーさんがあう゛ぁろんへ旅立ちそうです!」
「シロウ…今度会う時にはワカメと油揚げのお味噌汁だけでも…」
「わー!だれかセイバーに米補給ー!」
朝食もシロウのご飯を食べられないのかとそろそろバター畑の見え始めた王様だった。

そんな訳で、どうにか無事服を仕立てあげ、それを包んで各々の支度を整えてどたばたと学生三人を送り出し、振り回されっぱなしだった留守番メンバーもようやく落ち着いた頃。

「ねぇねぇ、私も文化祭っていうのに行ってみたい!」
と、イリヤが目で三人のサーヴァントに訴える。
「そうですね。私もどのようなものなのかとても興味深い」
とセイバー。
「…どうせ食べ物の出店が目的なんだろう…」
「っ!?アーチャー、なぜそれを!?」
王様非常に分かりやすいです。
「いいんじゃねぇか?面白そうだしな」
ランサーも賛成派。となると。
「アーチャー、お前はどうする?」
問われてしばし考えていたが。
「…まぁ…たまにはな…」
こうして、サーヴァントご一行様文化祭見学ツアーが結成されたのだった。



学園祭の開場、もとい学校に到着したとたん、さくさくと待ち合わせの場所と時間を指定して、女性陣2人はとっとと屋台メニュー食い尽くし…もとい散策に旅立ってしまった。
出店の調理担当が涙するのが目に浮かぶようであるが。

「さぁて、男2人になっちまったけど…どうする?」
半ば付き合いで来ていたアーチャーには当然目的などはなく。
「どう…と言われてもな…何か見たいものでもなかったのか?」
ランサーは入り口で渡されたパンフレットを眺めながら、
「別に。大体ブンカサイってのがどういうのかよく分からなかったしな。」
ランサーはあたりを見回しながら
「でも賑やかでいいな。結構好きだぜこういうの。」
言うと、ふと思い付いたようにアーチャーの顔を覗き込み
「お前は嫌いか?こういうの。」
ふいに近づかれて少しだけ動揺した後、アーチャーはふっと笑った。
「いや。嫌いじゃない。」
そんな回答に満足したのか、ランサーはにっと笑うと
「よっし!じゃあ適当に見て廻るか。」
はっし。
とやおらアーチャーの手を掴み、強引に引っ張って歩き出した。
「な!ちょっとま…おい!離さんかたわけ!」
アーチャーの抗議もどこ吹く風、である。

むろん。
ランサーが辺りにたむろする高校生のバカップル共に当てられた、なんて事は、ここだけの話。


学生達の出し物をあちこちと見て廻りながら、アーチャーは妙な違和感に襲われていた。

ここにいる学生…その中の数名は、確実にかつて自分のクラスメイトだった筈なのだ。
例えば、冷やかしに立ち寄った衛宮士郎が必至で鉄板の上でこてを振るう焼きそば屋で。
そこで店員をしていた何故かござる口調の少年とか。
店に係わっている者は確かに自分の同級生だったのだろうが。

アーチャーの記憶には、彼らは残されていなかったらしい。

ふぅ、と、知らずため息が漏れていた。
と。

「ほれ。」
いきなり口にアメリカンドックを突っ込まれ、アーチャーは目線でもがもがとランサーに抗議する。
「あはは、悪い悪いあんまりお前がぼーっとしてたもんだからよ。


くつくつと一しきり笑った後、ランサーは自分のアメリカンドックを一口かじり、

「こういう時はよ、無理矢理にでも楽しむもんだぜ?」
それをこくりと飲み下す。
「そうすりゃそのうち、案外本当に楽しくなってくるもんだ。」
だからこんな時にしけた面するのは犯罪だ、とばかりに。
ランサーはパンフレットをアーチャーに突きつけた。
「で、次なに見にいくよ?」
やたらと楽しそうなランサーに、
アーチャーはまた一つ、ふぅとため息をついて苦笑した。
そうだな、何かショウの様な物でもやっていれば、見に行ってみるのもいいだろう、と。
アーチャーはここで初めて、パンフレットに目を通した。


結局見に来たのは、チアリーディング部のパフォーマンスだった。


「…なぁ…あの格好どっかで…」

流れ出す音楽。
それは今流行の…

「あぁ。」
ぽんと手を叩くランサーの目が光る。



「やらんぞ。」
「ちぇ。」


なんだかんだで、文化祭は忙しくも楽しく過ぎていく。




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