日記掲載ネタ〜槍弓編〜 8


23 (ペキ)

世の中の人間は、2系統2属性2種類に分けられる。

すなわち。
創る者と探る者、使う者と壊す者。

そして――

「あーもう掃除なんてやってられっか!」

片付けられる者と、片付けられない者である。



抱えた荷物ともガラクタとも付かないものを放りだし、その場でごろりと大の字になる。

「……まだ始めて、一時間も経っていないだろうに」

早々に音を上げたランサーを見下ろしつつ、アーチャーはため息を吐き出した。

「いや、だってよ。片付くどころか、むしろ悪化してるぜ?」

言って、周りを見渡す。
掃除をしている最中、というよりも、ゴミ箱と物置の中身をぶちまけたような様。
部屋の一角に堆く積みあがった雑多な物を全て崩した結果が、この惨状であった。

「たわけが。片付けをするという事は、一度全てを広げると言う事だ。
 一旦はこのような状態になる。
 元々、お前がここまで要らんものを溜め込んだからここまで大事になっているのだろう」
「要らないモンじゃねえよ。全部使うんだよ」
「ほう? この、半年前の雑誌も? 集めるだけ集めてこんな所においている食玩も?
飲み終わったペットボトルの山もか?」
「う」

言葉を詰まらせたランサー。
その寝転がって眉根を寄せている彼の顔の上に、アーチャーはボフリ、とダンボールを乗せた。

「!? 何すんだよ……」

うざったそうに払いのけるランサーの手に、さらにもう一つのダンボールを持たせる。

「まずは、要る物と要らない物に分けろ。片付けはそれからだ」

アーチャーは言いながら、双方の段ボール箱に律儀にもマジックで「要る物」「要らない物」と記していく。

「……手伝ってくれねぇのか?」

ダンボールの合間から恨めしそうに上目遣いに見上げてくる視線を

「お前の要る物と要らない物の区別など、私にはつかん」

にべもなく跳ね返し、アーチャーはさっさと廊下へと出て行ってしまった。
掃除をしているのは、何もランサーの部屋だけではないのだから。


「要る物と、要らない物、ねぇ……」

段ボール箱を抱え直し、部屋の中央に座りこむ。

「まあ、つまりはごみだけこっちの箱に入れてけば良いんだよな?」

――それくらいなら、何とかなるだろう。
それさえ終われば、きっとアーチャーが何とかしてくれるに違いない。
何だかんだ言っても、彼は世話好きで片付け好きだ。
このままこの部屋を放置しておく事などできないだろう――
ひどく他力本願なことを考えつつ、ランサーは目の前の雑誌を手に取った。
中身をざっと見る。
日付的に、3ヶ月前といったところか。
冬も真っ盛りな今に、秋の絶景スポットの情報は役に立たないだろう。

「ん。これは要らない……」

と、ある一ページで、目が止まる。
並外れた動体視力の彼だからこそ、ざっと流し見ただけで気付いてしまったその、とある旅館と目玉となる景色を紹介したページ。

「ここ、アーチャーといったトコだったな……」

正確に言うと、彼とアーチャー二人きりではなく、「家族」皆での旅行だったのだが。
確か紅葉がとても綺麗で、料理も美味で。
何より、坊主達とは離れた、二人っきりの部屋。
浴衣姿の彼の、酒でほんのりと上気した頬と瞳が、月明かりの紅葉の下で映えて――。

「……とっておこう」

又来年使うかもしれないし、と誰にともなく呟いて、慌てて次のものを手に取る。
今度は、少し汚れた、プラスチック製のアヒルの玩具。
いつぞやの夜祭の景品で貰ったものだ。風呂場に浮かべて遊ぶ、幼児向けのもの。

「っつーか、この家、そこまでのガキいねぇし……」

何故こんなものまでとっておいたのだろうか、と自問しつつ、要らない物用ダンボールに、ぽいと投げ入れる。
ダンボールの中で一度跳ね上がったアヒルは、愛嬌たっぷりの顔でこちらを見ていた。
その目が、どことなく何かを訴えているように思えて。

「……そういや、このアヒル、温泉いった時に確か冗談半分で持っていったんだよな……」

余計なことを、またしても思い出してしまった。
もちろん、温泉に入る時はアーチャーも一緒だったわけで。
最初は警戒して全然近寄らせてもらえなかったのだが、このアヒルをいじっていたら緊張を解いてくれたのだ。
『全く、くだらないものを持ち込んで……』
と、口では呆れていたけれど、その顔は少しだが微笑んでいた。
『よく見ると、愛嬌のある顔をしているな、コイツは』
等と、彼もコレの事を少なからず気に入っていたような……。

「……これもとっとくか」

結局、アヒル殿を要らない物入れから救出し、『要る物』入れに優しく収めなおす。

「さて、次は……」



数時間後。
アーチャーがすっかり静かになってしまったランサーの部屋を覗き込むと。
――さっきとほぼ変わらない風景が、そこには広がっていた。
部屋の主は、こちらを振り向き、バツの悪そうな顔をしている。

「……で、言いたい事は?」
「スマン」

完結に、しかも即座に返してきた言葉に、アーチャーは思わず頭を抱える。

「何故、要る物と要らない物にすら分けることができんのだお前は……」
「いや、何つーか……やっぱり要るんだよな……けっこう」

その言葉に、アーチャーは「要る物」と書かれた箱の中を覗きこむ。
中に入っているのは、薄汚れた服だの、プラスチック製の玩具だの、いつのものとも知れない雑誌だの、何に使うのか解らないような物ばかりが在った。
どう控えめに見ても、よくてガラクタ、悪くてゴミだ。

「いや、俺もさ、捨てようとはしたんだけどよ。
 こう、見てるうちに色々思い出しちまって。そしたら、捨てらんなくなったというか……」
「……掃除というものは、捨てる事から始まるものだ。そうでなければたまっていくだけだろうに」
「解ってはいるんだけど、どうもな……どれも大事なんだよな。
 この一年の、お前との思い出が詰まってるし」

そういって、困ったように頭をかくランサー。
アーチャーは、その様子を何か言いたげに見ていたが、小さく息を吐くと、さっさと手に持っていた数枚のビニール袋に、『要らない物』入れに入っていた物や周囲に散らばった新聞紙・ペットボトル等をてきぱきと分別しながら突っ込みはじめた。
――一見して確実にごみだと解るものだけを、次々と。

「……アーチャー?」
「何だ?」
「いや、こっちは捨てないのか?」

いって、ランサーは『要る物』入れを指差す。

「要るのだろう? それは」
「自分で言うのもなんだが、めちゃくちゃ要らない物だらけに見えるけどな」
「だが、お前が要るというのなら、私には捨てられん。
持っていたいと思っているうちは、大事にしておくのも必要な事だからな」

そう言って、あらかた目立ったゴミを回収し終えると、さっさと廊下の方へと戻っていく。
と、廊下の一歩手前で振り向き、

「ただし、要ると言った以上、責任を持って管理しておけ。
 整理しきれなくなった時は、容赦なくごみとして扱うからな」
「げっ」

去り際のアーチャーの言葉に、整理の手伝いへの淡い期待を打ち砕かれたランサーは、残った『要る物』入れの中身と、まだ「分別」していない物の山を横目で見やる。

「……まあ、捨てらんないように、頑張るか」

彼の片付けが終わるのは、まだまだ先のようである。




廊下をゴミ袋を片手に、早足で歩く。
脳裏に浮かぶのは、先ほどの言葉。

『お前との思い出が詰まってるし』

……そんなことを言われてしまっては。

「――捨てろ、などと、言えるわけないだろうが、たわけ……」

衛宮家の大掃除は、前途多難だった。



24 (ペキ)

彼の片付けが終わるのは、まだまだ先のようである。





24 (椎名)


「アーチャー…どうしてもやるのか?」
目の前の標的を前に、ランサーはどうしても覚悟を決められずに立ち竦んでいた。
「なんだ。お前が手伝うというからそれを任せたんだろうが。」
「ぐ…そうだけどよぉ…」
渋るランサーに、アーチャーはいつもの様に黙々と作業を進めながら一瞥する。
「私がやってもいいのだが…こちらはこちらで手一杯なのでな。君に手伝ってもらえる事といったらそれぐらいだ。」

やるかやらないか。選択肢は二つに一つ。
「…あぁ…いいさやってやるよ…損な役回りは慣れてるんだからよ…」
つぶやき、その手に鈍く輝きを放つ禍々しき凶器を掲げた。

「許せ!全部世界が悪いんだからなー!」
叫び、手にした凶器を標的に向かって振り下ろす。

その者抜けるように白きを誇るはまるで絹のごとし。
原型を留めぬほどに分かたれてもその白さは変わることのなく。

「…ランサー…一つ聞いていいだろうか…」
「なんだ?」

「なぜ鏡餅を割るのにそこまで大げさにする必要がある。」
「うるせー!年末からずっと飾ってあったんだからなんかもったいない気がしてしょうがないんだよー!!」





25 (椎名)


「で…どうするんだそんな物…」
テーブルの上に置かれた小さな子瓶をジト目で睨み、アーチャーは興味なさそうにランサーに問い詰めた。
「どうするも何も…使うか捨てるしかねぇよな…」
同じく無関心らしいランサーも、つまらなそうにその小瓶を摘み上げた。

無駄に小洒落た薄っすらと紫がかった小瓶には、少量の透明な液体が入れられていた。
小瓶に貼られたラベルシールの片隅には「お試し用」の文字。

「まったく…使いもしねぇ香水なんて貰ってもなぁ…」

買い物の際に立ち寄った薬局で、問答無用で袋に一緒に詰められていたオマケの香水のサンプル。

それも女性用の。

しかし香水などまったく興味のない、ましてや男性の英霊二人に取ってはまったくもって無意味な代物だった訳で。

「お。でもこの瓶オマケにしちゃ良く出来てるし洒落てんな?」
試しに軽く降りかけて見ると、ふわりと甘く、しかしツンとした刺激の残る香りがしばし辺りに漂った。
「うぉ。やっぱ甘ったりーな。」
ランサーは手をぱたぱたと振って軽く咳き込んだ。

「いいじゃないか。それはそれで君に合っている香りだと思うが。」
「そうかぁ?」
鼻をくすぐるような、柑橘系の香り。
どこか野性的な、それでいて爽快なイメージ…だろうか。
何となくではあるが。

「ならお前は…」
と言おうとして。
「あー、やっぱお前は香水とか着けない方がいいわ。」
ランサーは一人納得したようにうんうんと頷いた。

「?なぜそう思う?」
鈍感。
危うく突っ込みそうになるのをギリギリで留め、
「言わねぇ。言ったら殴られそうだから。」

にやにやと笑いを堪えるランサーに、アーチャーはいつもより多く眉根を寄せた。

うん。
間違いなく全力で殴られるだろう。

お前いいニオイがするのにもったいない。
などと。




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