日記掲載ネタ〜槍弓〜 11


36 (ペキ)

ランサーくんの秘密日記。

2/3 晴れ。

今日は節分なので、皆で恵方巻きとやらを作った。
良くは分からんが、今日は豆をまいて太巻きを切らずに食うといいことがあるらしい。
他のヤツラは食べやすい大きさの巻物をいろいろと作っていたが、オレは思うことがあって特大の太巻きをこさえた。でかくて、太いヤツ。
そんでもって、気合を入れて作った以上、アーチャーに食ってくれと頼んでみた。

「……別にかまわんが。何か変な細工をしてはいないだろうな?」

これだからコイツは疑り深くていけない。
オレの手料理を食べて欲しいだけだ、と言うと、特に怪しいところも見当たらないと見て取ったらしいアーチャーは黙って特大太巻きを受け取った。
ああ、オレは別に何も入れちゃいない。その恵方巻きとやらには何の仕掛けも無い、単なるでかくて太いだけの太巻きだ。
だが!
まさにでかくて太いところにこそ、その真意はあるのだった!
ぶっちゃけ、その太巻きをほおばるアーチャーが見たい。
一見何の変哲も無い光景だが、煩悩をフル回転させれば……見よ!


黒くて太いそれを、口に入れようとして、入りきらずにためらうアーチャー。そしてなんとか口いっぱいに頬張るも、うまく食べられずに戸惑う姿!
『……く、ぁ、ランサーのは大きすぎて、口に入りきらない……』
(♪以上ランサー妄想電波協会の提供でお送りしました♪)

……なんかちょっぴりエロスな香りが!
よくね? なんかよくねえ!? これどうよ!?

そんなオレの期待通り、アーチャーはオレの太くて大きい物(※言うまでもなく太巻きです)をゆっくりと口へと運び……しばらく逡巡した後。


がぶ、ぶちり。もぐもぐもぐ。


……え。なにそのワイルドな音。


がぶ、ぶちり。もぐもぐもぐ。


アーチャーは壁の方向を向いて黙ったまま、「オレの」太巻きを淡々と、「食いちぎって」いく。そりゃもう、ブチブチと。
あ、あれ? なんか、ちょっと痛そうな音だぞ?
何処が、と言うわけではないけど、視覚的にイタイ。
思わず手で大事なところを押さえてしまうオレだったり。


がぶ、ぶちぶちっ。もぐもぐもぐ。


アーチャーは、そのなんかちょっとどこか痛そうな食べ方のまま、最後まで食べきった。
そして食べ終わった後、「少々大きかったが、うまかったぞ?」と、肉食獣のような目(※おそらく錯覚です)で笑んだのだった……。

……変な煩悩は、考えるもんじゃねえな……。

            どっとはらい





37 (椎名)

「アーチャー、一緒に飲まないか?」
 そんなランサーの誘いは何時もの事。
「何か下心が見える気がしてならないのだがね?」
 アーチャーも慣れっ子なのか、呼んでいた本から目を離す事なくジト目で言い放つ。
「あ、分るー?」
「……」
 言い返す気力も尽きるアーチャーだった。
「まぁまぁ冗談だって。一杯ぐらい付き合えよ」
 こうなると中々引かないのも分りきっているので、アーチャーも溜息を付いて本をテーブルの上に置いた。
「私が作ったので良ければ」
 言ってアーチャーは席を立つ。
「お?入れてくれんのか?」
「まぁ、簡単なカクテルなら」
 待っていろ、と言い捨てて、アーチャーは台所へ消えて行った。
 待つことしばし。
 トレイを持って戻ってきたアーチャーからグラスを受け取る。
 一口含めば、口内に広がる少し強めのアルコールと爽やかな柑橘系の香り。
 そしてほのかに、舌を刺激する塩辛さ。
「ん、上手いけど随分飲みやすいな。つうかちょっとしょっぱい?」
「あぁ、ウォッカをグレープフルーツジュースで割った物だ。本来はグラスの縁に塩を置いて飲むんだがな。手間なのでそのまま入れた。」
 カラン、と音を立てて、アーチャーも一口グラスの中身を煽った。
「ふーん。詳しいな。」
 すぐに無くなりそうだなーなどと考えながら、ランサーはもう一口勢い良くグラスを傾ける。
「オーソドックスなカクテルだからな。ちなみにソルティードックというんだが」
「〜〜んーー!!!!」


 その後、ランサーがこのカクテルを味わって飲めるようになるのには暫し時間を要したと言う。





38 (椎名)


 その日。
 アーチャーが何時もの様に洗濯物を取り込み終えて、夕食の支度までしばしのんびりとしようとしていた、その時。
 一本の電話が鳴った。
「アーチャーか!?」
 受話器を取るなり、電話の相手は鼓膜を破らん程の勢いで声を張り上げた。
「ランサー? 何かあったのか?」
 少し気圧されながらも、アーチャーは電話の向こう側の様子を探る。
「公園で……人が……」
「!?」
 切羽詰った電話越しの声に、アーチャーは思わず一瞬息を飲んだ。
「とにかく大変なんだ! すぐに来てくれ!」
「な、ちょっとま……」
静止の声が早いか否か、受話器の向こうは無機質な電子音に変わってしまった。
「……ちっ……」
アーチャーは一つ舌打ちすると、受話器を置いてそのまま外へ飛び出した。
「公園、と言っていたな……」
 確かその辺を散歩してくると言っていたのも考えると、ここから一番近い公園の事だろう。
「随分と慌てていたな……どうしたというのか……」
 いつもマイペースなあの男が、あれだけ狼狽しているというのは珍しかった。
 何か大変な事にでもなっていなければ良いが、と内心の不安を抑えつつ、アーチャーは少しでも早くと屋根から屋根を飛び移りながら目的の場所へと急ぐ。
 元よりさほど遠くはない、近くの公園だ。
 英霊の足を持ってすれば、数分も掛からずに辿り着く。
 公園といっても、子供の遊び場の様な小さな広場ではなく、小さな池や東屋などもあったりする自治体管理のそこそこ立派な物だ。
 そんな、市民の憩いの場である公園で。
 何かが、起きている。
「っく……」
 知らず、奥歯を噛み締めていた自分に気付き、それが余計にアーチャーの気持ちを焦らせる。
 やがて、公園を囲む子供の背丈程の生垣が目に入り。
 アーチャーは近くに人の気配がないことを確かめ、生け垣をを飛び越え園内へと降り立った。
 ぐるりと見渡し、辺りの様子を伺った。
「む……やけに人が多い気がするが……」
 いつもなら、数える程しか利用者がいない筈の公園。
 しかし木々に覆われた向こう側の広場から、複数の話し声が聞こえる。
 アーチャーは広場へと駆けて行き……

「よ。早かったな」
いつものように、良い笑顔で迎えるランサーを目に止めて、アーチャーは一瞬動きを止めた。
 一瞬何事か理解できず、思わず廻れ右してそのまま帰りたい衝動に駆られた。
「……何をしているんだお前は……」
 ジットリと視線を落とした先には、缶ビールを手にして待ち構えていたランサーの姿。
「いやぁ、あんまり人が多かったんでビックリしちまってよ」
言われ改めて辺りを見れば、其処彼処にレジャーシートを引いて思い思いに宴に興じている人々の姿。
 見上げれば、見事な桜が丁度満開を迎えていた。
「それに、この花がな。すんげぇキレイだったし、全部散る前にお前も呼ばないとって思って慌ててお前に電話して、その辺で酒買って戻って来た所だ」
 それであの電話かと、アーチャーは溜息を付く。
「それで、回りくどく呼び出してどういうつもりかね?」
 分っていてあえて聞いてやるのは、アーチャーの美徳である。
「まぁいいじゃねぇか。せっかく来たんだし、少しぐらい花見してこうぜ?」
「回りくどい手で呼び出しておいて何がせっかくなんだか……」
 予感的中、とばかりに、アーチャーは一つ深い溜息を吐いた。
「……一つだけ言っておきたいんだが」
「ん?」
 少しだけ、不貞腐れたように俯き、アーチャーはぽそり、と呟いた。
「来年は……花見をしたいならちゃんと言え」
 ランサーは数秒、呆けたように目を瞬かせ、にっと笑った。
「おう。断らないって約束してくれんならなー」
 言って、ランサーはアーチャーに缶ビールを投げて寄こした。
「たわけ」
 おそらくは……断る理由などないと分かってて言っているあたり、質が悪いのだと苦笑しながら、アーチャーは缶を受け取った。





39 (椎名)

「で、ランサー。何のつもりだそれは」
「んー?見て分らねぇ?どっからどう見ても眼鏡だろ?」
「どこからどう見ても伊達眼鏡だが」
「あ、度入ってないの分かる?」
「野生児のお前が眼鏡を必要とする筈もなかろう」
「ちぇー。せっかくお前が喜ぶと思ってかけてみたのによー」
「誰が喜ぶかー!」






40 (椎名)


 朝。
 起き抜けの気付けにと牛乳を飲むのは、あの絶望的に朝の弱いマスターの習慣が移ったのかもしれない、などと思いながら、アーチャーは冷蔵庫から紙パックの牛乳をを引っ張り出した。
 ぱたん、と冷蔵庫のドアを閉め、アーチャーはふむと呟いた。
 手にしたそれに覚えた、妙な違和感。
 正体は直ぐに分ったが。

「最近どうにも減りが早い気がするのだが……」
 そう。
 昨日の夜にはまだ半分近く残っていた筈が、今朝は四分の一ほどまで消費されていた。
 まぁ深く考えても詮無きことかと、コップに牛乳を注いで一気に半分程まで飲み干す。
 紙のパックを冷蔵庫に戻した所へ、この神聖な台所へ第二の侵略者が現れた。
「はよーさん、今日もお早いこって……」
 一目も気にせずあくびをしながら、何か青っぽい人がアーチャーの横を通り過ぎた。
 ランサーは今し方アーチャーがしまったばかりの紙パックを取り出した。
「アーチャー、コップ取ってくれるか?」
 一応顔は洗って来たのだろうが、未だ眠そうに重い瞼を何とか開けている。
 コップを渡し、もさもさと牛乳を口元へ運ぶランサーを見て、アーチャーはそういえば昨日の夜も……と言うより、ここ数日頻繁にランサーが牛乳を口にしていたのを思い出した。
「ランサー、お前はそんなに牛乳好きだったか?」
 ん? とアーチャーへ視線を向けて、ランサーはコップを口元から離した。
「いやぁ、そんな大好きって程でもねぇけどよ。」
 言ってランサーは残っていた牛乳を飲み干した。
「そうなのか? それにしてはこの所よく飲んでいるようだが」
 その言葉に、ランサーが一瞬ぎくりと体を強ばらせたのを、アーチャーは見逃さなかった。
「……ランサー?」
 ジットリねっとり視線をやれば、ごくりと唾を飲むランサーの姿。
「べっ……別に背が伸びるように牛乳飲みまくってる訳じゃねぇぞっ!?」
 そうまくし立てるランサーに、アーチャーはにやりと口元を跳ね上げた。
「ほう、なるほど。そういう理由か」
 ついつい発動したうっかりに、よっぽど情けなくなったのかランサーは頭を抱えて呻きだした。
 アーチャーは眉根をよせると、気まずそうにふむ、と小さく溜息を吐いた。
「そんな落ち込むような事か? というより……お前は既に十分長身な方だと思うがね?」
 慰めのつもりで掛けられた言葉に、ランサーは顔を上げてむぅと口を尖らせた。
「やっぱお前より身長欲しいかなぁって……」
 ぽそり、と呟くと、ランサーは気まずそうにアーチャーから視線を逸らした。
 アーチャーはアーチャーで、その言葉の真意を読み取るのに一呼吸を要したらしく、その顔がじわりじわりと赤くなって行く。
「たわけがっ! だいたいサーヴァントがいくら牛乳を摂取したところで身長が伸びる訳がないだろう!」
 最もな言い分に、ランサーもどこかの虎を思わせる咆哮を上げた。
「気休めでも飲まないより良いだろー!」
「気休めなら飲むなもったいない!」
「うるせー! だいたいなんであの坊主がこんな馬鹿デカくなってんだよ馬鹿ー!」
「そんなのあの馬鹿に聞けっ!」

 そんな騒々しい朝の風景を、二人の騒ぎもあって起き出したこの家の住人達が生暖かく見守っていた。





40 (椎名)


「ただいまー」
 玄関を潜る気配を感じ取ってから数秒後。
 いつにも増して気の抜けた声で、帰宅を告げる声が耳に届く。
「早かったな」
 記憶していたバイトの終了時刻から計算してやや早い帰宅を少々不思議に思いながらも、アーチャーはあえて深く追求はしなかった。
「何か出そうか?焼き菓子があったと思うが」
 ソファーに座ってくつろいでいたアーチャーは、お茶でも淹れてやろうかと席を立つ。
「いや、いい……」
「そうか?」
 何時もよりテンションが低いのにアーチャーは一瞬眉を顰めたが、まぁ疲れているのだろうとさして気にも留めなかった。
 踵を返し、キッチンへと向かおうとして。
「アーチャー……」
 ふいに背後から呼び止められ、アーチャーは振り返る。
 すぐ近くまで迫っていた顔が近寄り――
 がば、と抱き着いてきた。
 突然の事にアーチャーは受け身を取り損ね。
 どさり、と派手な音を立てて、そのまま倒れ込んでしまった。
「なっ……何を、ランサ……」
 ランサーの下敷きになり、混乱しそうな頭でどうにか抜け出そうと試みる。
 が。
 ランサーの身体に思ったほど……否、殆ど力が入っていないことに気が付き、アーチャーはランサーの顔を覗き込み、

「き……気持ち悪ぃ……」
 半ば涙目で真っ青な顔を目撃した。


「いやぁ、バイト先でな、健康診断があってよ……」
 頭を抑えながら、ランサーはだるそうに話し出した。
「で、血液検査っての?なんか注射器で血ぃ抜かれてよぉ……そしたらこのザマだ……」
 要するにまぁ、貧血を起こしたらしい。
 そんなランサーの様子に、アーチャーは思わず吹き出した。
「いや、君が貧血とは。世にも奇妙な事が起こる物だ」
 くつくつと笑うアーチャーに、ランサーは抗議の声を上げる。
「しゃーねーだろ!なんかすんげぇ生々しいんだよあのチュぅーーって感じが!」
「お前は血の気が多いからな。少しぐらい抜いてもらって丁度良いのではないかね?」
 ランサーは怒るに怒れないらしく、ただただ呻くのみである。
「うー、だめだー力が入んねぇ……」
 貧血とはいえ、本人には結構堪えているのだろう。
 少々からかい過ぎたかと、アーチャーは少しだけ反省した。
 夕飯は何か、鉄分豊富な食材を取り入れた物を考えよう、などと思いながら。

「で、いつまでそうやってるんだお前は……」
「……膝枕……」
「ほう。ずいぶん元気そうだな?」

 イイ笑顔のアーチャーに、ランサーが問答無用で蹴り飛ばされたのはまぁ、言うまでもない。




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