0214聖戦〜2006年バレンタイン〜 (椎名)


 2月上旬。
 この時期になると嫌でも耳に目にする、バレンタインの文字。
 大手百貨店はもちろん、近所のスーパーやコンビニでもピンク色の文字が犇き、バレンタイン当日が近づくに連れて、女性陣達もどこかそわそわしているようだった。

 そして運命のXデイ。
 ここにも落ち着きのない男が一人。

「はぁ……」
 テレビでうっかりとバレンタインに因んだ番組を見てしまい、ランサーは知らず溜息をついた。
 其処此処で可愛らしく包装されたチョコレートを目にする度に、思い出すのは去年の悲劇。

 そう。
 あれは悲劇だ。
 犬扱いされた上にスカを掴まされたなどと。

「まぁ何だかんだ言って貰えたから良かったけどよ……」
 流石に同じ事をされたらちょっと立ち直れそうにないかもしれないなぁ、などと思いながら。
 ランサーは台所を占領して並んでいるアーチャーと士郎の様子を伺った。
 漂ってくるのは、嗅ぎ慣れたふんわりと甘い香り。
 今年も女性陣達とチョコレートの交換(一部勝負)でもするのだろう、昼過ぎ辺りから時折いがみ合う声を上げながら、それでも着々と作業を進めているようだった。
 女性陣が戦闘態勢を整えて乗り込んで来るまであと数時間。
 それまでこれと言ってやる事もなく、下手に期待してもしょうがないと諦めて、ランサーはテレビを眺めている事にした。


 夕食後に行われた品評会。
 今年は余計な事を仕出かさなかったので何とかランサーも混ぜて貰えた。
 女性陣からの義理チョコもまぁ嬉しかったし、アーチャーと士郎の作ったチョコにも有り付けたので文句は言わなかったけれど。
 何処となく支えるような物寂しさに、ランサーは一人居間のちゃぶ台に突っ伏して唸っていた。
「やっぱりこう……特別なのが欲しいってのは贅沢なんかなぁ……」
 むー、と項垂れていると、心地よい食後の睡魔に襲われてきた。
 このまま少し眠ってしまおうかと考えていると。

 ぽす。

「んあ?」
 背後から唐突に頭頂部に置かれた何かに思わず声を上げ、ランサーは慌ててそれを手に取った。
 かさり、と乾いた音を立てる、心なしか可愛らしい包み。
 まじまじとそれを見つめ、ランサーは首を後ろに反らして背後に立つ気配の主へ目をやった。
 視線の先には、ジト目で腕を組んだアーチャーが己を見下ろしていた。
「寝るのならちゃんと部屋へ戻ってにしろ。片付けの邪魔だぞ」
 そういつもの皮肉を言い放つアーチャーは、しかしどこか目が泳いでいた。
「アーチャー、これ……」
ランサーが見上げると、アーチャーは一つ咳払いして僅かに顔を赤らめた。
「日付が変わらない内の方が良いのだろう? だから今の内に渡しておく」
 つまりこの包みはひょっとして否ひょっとしなくても。
「チョコ……」
「遅くなってしまったんでな。これから桜と藤ね……タイガを送ってくる」
 ランサーの言葉を遮るように捲くし立て、アーチャーはその場を去ろうとして。
「いらないなら別に良いが?」
「いる!ぜってー食う!」
 食らい着くような即答その間0コンマ3秒。
 その勢いに圧倒されてか、今度はアーチャーの方が目を瞬かせた。
「ま、まぁそう言うのなら……」
 もう一つ軽く咳をして、アーチャーは踵を返した。
「では、留守は頼む」
「おう。寄り道すんなよ」
「するか」
 言って部屋を後にしたアーチャーを見送り、ランサーは包みを開いた。
 甘い香りと共に現れたのは、一度溶かした物を一口サイズに搾り出したのだろうシンプルなチョコレート。
「へぇ。アイツらしいって言うか何て言うか」
 ふと、去年彼が何と言っていたのか思い出し、思わずランサーは噴出した。
「ま、良い子にしてたからご褒美って所かね」 
 一粒手に取り口へと放り込んだそれは、ほんのりとほろ苦く、微かに洋酒の香りがした。




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