2008初夢SS 槍弓   BY椎名


 年も明け、だらだらと普段通りの雰囲気になるを待つ正月の三が日。
 しかし万年だらだらしている槍兵は、いつにもましてだらだらとしているのであった。
「アーチャー、お茶くれー」
 ごろんと卓袱台に突っ伏して、実に暢気に欠伸を噛み殺しつつそんな事を言うランサーに、アーチャーは溜息を一つ吐くでもなく、じとりと視線を投げて一瞥すると台所へと消えて行く。
 しばらくして湯飲みを二つ乗せた盆を手に戻ってきたアーチャーは、ことりと卓袱台に湯飲みを下ろす。
「お茶ぐらい飲みたければ自分で入れれば良いだろう、今年もそうしてだらだらしている心算か?」
「ひでぇなー、お前の淹れたお茶が飲みたいだけなのによー」
 むく、と起き上がり、湯気を立ち昇らせる緑茶を啜った。
 見た目は思いっきりガイコク人の癖に、湯飲みを口に吐ける仕草が堂に入っているあたりは流石英霊、と言った所だろうか。
 そんな様子を見守り、いよいよ溜息を一つ吐いてアーチャーもランサーの向かいに腰を下ろした。
「まったく……戦闘時の覇気が皆無だな、室内犬」
「何か言ったかー?」
「いや、別に」
 ずず、とアーチャーも淹れたばかりの茶を一口。
 ふとテレビを見やれば、話題は初夢の話。
「初夢かぁ、そういや、サーヴァンは夢なんざ見ないんだよなぁ。初夢くらい見れねぇもんかな」
 ぽつり、と誰にともなく漏らされた言葉に、アーチャーがぴくりと一瞬身を強張らせたのをランサーは見逃さなかった。
「? どうかしたかアーチャー?」
「べ、別に何でもないが」
 小首を傾げるランサーに、アーチャーはぶっきらぼうに言い放ち、お茶をもう一口啜った。
「ふーん……」
 じとりと訝しげな視線を向けるも、アーチャーは知らぬ振りを決め込んだ。


「こんにちわー!」
 と、明るく暢気なアルファー派出まくりな声が玄関に響いたのはその日の午後だった。
「よー、お子様キングじゃねぇか。どうしたよ」
 出迎えたランサーに、お客人――子供姿の英雄王はむぅと不満そうに唇と尖らせた。
「なんかその呼び方酷いですランサーさん……せめて金ぴかの王子様とか……」
「誰がおうぢさまだ誰が」
 そんなほのぼのとしたやり取りも、年始だからとて何時もと変わらぬ光景の一つ。
「ギルガメッシュ、どうした?」
 玄関にアーチャーが顔を出すと、ギルガメッシュはニコりと笑って以っていた風呂敷包みを差し出した。
「こんにちはアーチャーさん、先日頂いた御節料理のお重箱を返そうと思いまして」
 そういえば、と思い出したように目を見開くアーチャー。
 お正月に遊びに着ていたギルガメッシュに、せっかくだからと協会にいる似非シスターにもお裾分け、と重箱を持たせたのだった。
 どうやら今日はその時の重箱の返却に来たということらしい。
「わざわざ来なくとも……用入りの時のついでで良かったのだが」
「いえいえ、お借りした物は出来るだけ早くお返ししないと。それに調度、そこのランサーさんにマスターから言伝もありましたし」
「ん? オレに?」
 不意に名を呼ばれ、ランサーは自身の鼻先を指で指して聞き返した。
「えぇ、取り合えず部屋の掃除が終わっていないからとっとと帰って来なさい、だそうですよ?」
「あのクソシスタぁ……」
 じっとりと目を細め拳を握るランサー。
「まったくいい迷惑ですよ……本来ならしょっちゅうこの家に入り浸ってるランサーさんが返しに行くのが筋なのに年末から全然帰って来ないんですから。お陰で僕がこんな使いッパシリみたいにな事を……ってまぁ、それはいいんですけどね、そろそろ一度帰らないと何されるか分かりませんよ?」
「あぁ分かったよ、今日中に一旦帰るからそう言っとけ」
 言うと、ランサーは部屋の奥へと引っ込んでしまった。
「引き取り感謝、と言った所か。だらだらと大の大人の置物があるのも邪魔なのでな」
 ふぅ、と溜息交じりにそう述べると、ギルガメッシュはふふん、と不適に笑みを浮かべた。
 その容姿と相俟って実に小悪魔しい事この上ない。
「そんな事言ってるからいざと言う時甘えられないんですよ?」
「ふん……どうだかな。取りあえず、せっかく持って来てもらったんだ、それは受け取ろう」
 皮肉に自嘲気味な笑みで返し、アーチャーは風呂敷を受け取った。
「はい、確かにお返ししました。あぁ、ところで……」
 すす、っとギルガメッシュはアーチャーの耳元へと顔を寄せ、
「僕が上げた薬、効きました? 」
「!?」
 囁かれた言葉に、アーチャーは一瞬にして耳まで真っ赤に染めて身を引いた。
「あは、その様子だと上手く行ったみたいですね。良い初夢見れました?」
「ち、ちが……!」
 明らかに動揺を色濃く見せるアーチャーに、ギルガメッシュはくすくすと心底面白そうに笑みを浮かべた。
「夢を見ないサーヴァントに効くか確証はありませんでしたけど。流石は宝具ですねー。夢を呼び込む呪いの薬の効果は絶大みたいです」
「……どうでも良いが……事あるごとに私を実験台にするのはほどほどにして貰いたいのだがね……」
「酷いなぁ、せっかくアーチャーさんが初夢を見られるようにと思って気を使ったですのに……くすん」
 などと言いつつ、目元を指で拭う仕草をしてみせるギルガメッシュに、アーチャーはう、と言葉を詰まらせる。
 どうにもこの姿のギルガメッシュには勝てる気がしないのだった。
「そうは言うがな……」
「ふぅん、そういう事だったのかよ」
 不意に掛けられたもう一つの声に、アーチャーはギクリと肩を強張らせた。
「ら、ランサー……」
 ぎぎぎぃ、と首を後ろに回して見れば、腕組み壁に寄りかかり、にやにやと鬼の首でも取ったように笑みを浮かべるランサーの姿。
「なるほどなー。これでさっき初夢の話をした時に様子がおかしかったのも合点が行ったってもんだぜ」
「な、ちが……」
「で、アーチャー?」
 アーチャーの講義の声など何処吹く風でてくてくと歩み寄り、
「初夢、どんなのだったんだ?
ひょっとしてオレが出てきてたりしてなーw」
「い……言うかたわけー!」

 アーチャーがどんな初夢を見たのか、はたまた本当に見れたのかどうかは……
 当人のみぞ知る、である。

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