web拍手ネタ〜弓士編〜 5


18 (椎名)

<<<<<酔眩月>>>>>


月の満ち欠けは、あらゆる生命に影響を与えると言う。
出産は満月の時に多いだとか、事故や病での死亡率は新月に多発するだとか。
それが月の発生する引力やら電磁波やらのせいなのか、はたまた月の魔力による物なのか、それとも単なる偶然なのか。
アーチャーには全く分らないし興味もないが、一つだけ言えることがある。

衛宮家では、満月の時はとかく普段より気が緩みやすい。
詩的に述べるならば、月に魅入られやすい、とでも言うのだろうか。
とにかく、何処か浮ついた雰囲気になるのだ。


その大部分が、月見にかこつけた酒盛りのせいではあるのだが。

「むーうーうー」

ごろごろと畳の上を寝転がりながら得体の知れないうめき声だか鼻歌だかを口にしているのは、衛宮家の主(若干1×歳)その人だ。
言うまでも無く酔っ払っている。
本来彼は衛宮家で月一程度開催されている酒盛りには不参加の姿勢なのだが、今回はメンバーと運が悪かったらしく、酒を飲まないどころかむしろ一番飲まされ、最終的には気持ちよく酔っ払っていると言う体たらくだった。
黙々と後片付けをするアーチャーを上目遣いに見上げながらニヤニヤと笑っている姿は、本来の仏頂面を知る他人が見れば驚愕に値するだろう。
もっとも、今衛宮家で活動しているのはもう一人の家主である赤い男だけで、だからこそ士郎が別段警戒も取り繕いもせずだらけにだらけているとも言える。

「ふへーへー」

ほにゃりと意味もなく幸せそうに笑う姿はまさに泥酔。
頭にネクタイでも巻いていれば路上に放り出すのこそが相応しい。

「……いい加減に自室に下がれ」

見かねたアーチャーが声を掛けるが、聞いているのかいないのか、従う様子は無い。
鼻歌うめき笑いを続ける士郎に、アーチャーは仕方なく洗い物を片す事を優先した。






「……士郎?」

あらかた片付け終わった後、突如静かになった居間を振り返る。
先ほどまでの幸せそうな間抜け面も鼻歌も、視線の先には見当たらない。
気配を探ると、どうやら縁側にいるようだった。
エプロンを外し障子を開く。その直ぐ足元には、うつ伏せでぴくりとも動かない撃沈者が一人。

「……」

アーチャーは軽くため息を付き、沈んだ士郎を運ぼうと体の下に手を入れ……

「うりゃっ」
「っ!」

手を入れようとした所で、沈んだフリをしていた大トラならぬ大柴犬にタックルを食らう。
英霊であるアーチャーが思わずまともに尻餅をついてしまったのは、敵意の無さのせいか、はたまた彼も気が緩んでいたのか。

「はっはっは、めしとったりー」

上機嫌で体勢を崩したアーチャーの腰にしがみつく少年。

「……お前、姉の虎に行動が似てきているぞ……」
「む、なんでさ」

と、不機嫌そうになったのも一瞬。
尻餅をついたままのアーチャーの腰からずりずりと下がると、力なくうなだれた彼の膝を横に倒し。

「ふっふっふ」

妙な笑いとともに、アーチャーの足を枕にごろりと横になる。

「……おい、何をしてる、衛宮士郎」
「膝枕」
「…………」

あきれてものも言えない、と脱力したアーチャー。その顔を士郎は満足げに見上げつつ

「ふふ、おれの勝ちだ――な、アーチャー…………」

言って、幸せそうにまどろんで目を閉じた。


残されたのは、唯一月の魔力の中正気を保ってしまった男が一人。

「―――ああ。又、私の敗北、のようだ」

何度目かの深い溜息をつき。
アーチャーは膝の上の頭を撫でつつ、何処からとも無く出した毛布を少年の体にかけた。

見上げれば、理性も眩むような、初夏の満月――――。





19 (椎名)

 時刻は、午後6時30分。
 衛宮邸は中枢、台所にて。
 並べられた食材を前に、俺とアーチャーはしばし無言で睨みあう。
 いや、正確には、睨みあいというよりは単に緊張した面持ちで視線を合わせただけであるが。
 何せ、今お互いには敵意などはなく。
「……いいなアーチャー、今俺達が息を合わせて協力しなければ……この家に未来は……ない」
 重々しい口調で告げる士郎の額には、一筋の汗が流れ。
 その言葉が、ただ事実である事を物語っている。
「あぁ……分っている。 仮にも私もこの家にいた身。それぐらいは理解しているさ」
「なら……やるぞ……!」
 返事は要らず。
 それが合図となって、戦闘……もとい、夕食の支度は開始された。

 事は単純。
 様は、衛宮さん家の食卓王ことセイバーとの約束を違えないためである。

――七時には夕食にするからな――

 そう言ってしまったのは今朝の事。
 しかも、あろう事かリクエストまで聞いてしまったのだ。

『そうですね。良ければ、以前いただいたエビ団子が食べたいです』

 果たして、聖誓は成され、今夜の献立は揺ぎ無いものとなったのだ。
 が。
 このような日に限って、バイト先で重大なトラブルに巻き込まれ、帰るのが遅くなってしまったのだ。
 慌てて足りない食材を揃えて帰って来たものの、あと30分で完成させるには、今宵の献立はいささか強敵であった。

 この類の約束を違えた時のセイバーがどうなるのか。

……否、今はそれを考えるよりも、それを防ぐ為にこそ全力を尽すべき時……!

「アーチャー……」
「ボウルはそっちの戸棚のを使え。あぁ、あと……」
「はいヘラ!」
「む、それはこっちでやろう」
「じゃあナベの準備するから……」
 

「主語がないのに……良く息が会うわよねぇ」
 奮闘する二人の様子を、赤い悪魔が暖かく見守っていた……とかいないとか。




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