雨振り (椎名)


「あーあ、ホントに降ってきちゃったなー…」
朝の晴天が嘘のように土砂降りの雨。
俺は昇降口に立ち尽くし、灰色の空を見上げた。
「まいったなー…やっぱ傘持ってくればよかったかなー…」


「士郎、今日は夕方雨が降るらしいから傘を持って行った方がいい。」
登校間際の朝のこと。
支度に少し手間取って焦っていたせいもあるのだろうが、俺はその言葉をさして気にも止めなかった。
加えていうなら。
「嘘だー、めちゃくちゃ晴れてるぞ?雨なんか降らないって。」
外は眩しい程の晴天。
これで雨が降るなんて誰が思おうか。
「しかしだな…」
「いいよ。雨降ったら濡れて帰ってくるから。じゃあ行って来る。」

そう言って奴の忠告を無視して傘も持たずに出てきてしまったのだ。
「はぁ…こりゃバチでも当たったかなー…」
自業自得だなーと反省することしばし。
クラスメイトの話しだとどうやら台風の影響による一時的な強い雨のようだ。
少しだけ待って弱まった頃を見計らって、予告通り濡れて帰ることにしようか。
くそー、あいつの『まったくいわんことじゃないな…』とか呆れた顔が目に浮かぶようだなちきしょ。
「まったくいわんことじゃないな…」
そうそうこんな感じ…
「…っておうわあぁ!?」
突如掛けられた声に慌てて後ろに飛び退いた。
「アーチャー!?なんでここにっ!?」
「なんでここに、じゃない。今朝忠告してやったのに傘を持って行かなかっただろう…だから傘を持って来たんだが。」
「…あ…」
言ったとおり、アーチャーの手には傘が携えられていた。
ちなみに、今の奴の格好は普段の赤い外套姿ではなく、武装を解除して黒いシャツに黒いズボンといった出で立ちである。
無論。
学校という空気にはいささか不釣り合いなのだが。
「そうか…わざわざすまないな…」
「別にかまわないがな…次からはもう少し私の言うことも聞いてくれてもいいだろう。」
少し拗ねたような物言いに、俺も変に意地を張るのをやめる事にした。
「あぁ…今朝はごめん。せっかく気遣ってくれたのに無視したりして悪かった。」
悪いと思った所はちゃんと謝っておく。

が。

「けど…なんで傘一本なんだよ…」
そう。
アーチャーが持ってきた傘は自身が指してきた一本だけだったのだ。
つまり、奴のいう事が本心であれば、俺の分だけ。
「別に私はこの程度では風邪など患わないからな。この傘はお前が使え。」
そういってアーチャーは俺に傘を差し出した。
それを受け取って――
「悪い。やっぱ使わない。」
言って再びアーチャーに押し返した。
きょとんとしているアーチャーから目をそらして、
「…なんていうか…バチが当たったみたいだしさ…それでここまでしてもらったらちょっと気が引ける。」
しばし流れる短い沈黙。
やがて沈黙を破ったのはアーチャーの小さなため息だった。
「まったく…それでは私がわざわざ傘を持ってきた意味がないだろうが…」
…う…そう言われるとちょっと…
「けどなぁ…それじゃ俺が納得いかない…」
「好きにしろ。濡れて帰りたければそうするといい。」
言ってすたすたと歩き出してしまった。
「ちょ…ちょっと待てって!」
「もっとも、お前のことだからな。また下らない意地でも張って濡れて帰るなどと言い出すかと思ったが。安心しろ。風呂なら既に沸いている。」

…こいつ…初めっからそのつもりかよ…


それで私が傘を使ったのでは本末転倒だな、とか言って、結局アーチャーも傘を差すことはなく。
二人して持ってる傘も指さずにずぶ濡れになって家路についたのだった。




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