A one of nightmare (椎名)


それはいつか見た、ある一つの結末。

「遠坂…無事…に…」
そう呟いて倒れた目の前の少年。
己自身を捨て石にし遠坂凛を送りだす為に、殺されると分かって無謀な戦いに臨んだ少年。

それを。

斬った。

それこそが望みであったからか。

迷いは。

無かった。

なんの事はない。

全てはこの時の為に

あった――はずなのに。

「…ばかだよ…お前は…」

なぜ

倒れた少年を

衛宮士郎を

抱き止めたのか。

この
腕が。

そうだ。
「お前は…ばかだ…」

私はばかだ。

「お前が負けては」

私が

報われないではないかと。

「…は…」
笑いが漏れた。

なぜ

こうもあっさりと殺された。

なぜ

私が間違っていたのだと認めざるを得ない結果しか残さない。

「…はは…」

ようやく。
気が付いた。

私はお前に

負けて欲しくなどなかった

と。

私は間違っていると。

かつての憧れた生き方が

間違ってなどいなかったのだと。

証明して欲しかった。

そう。

おそらく私は間違っているのだろう。

だから。

「…はは…っ!」

全てを失い。

最後には笑うしかなくなったのだ。

なんて。
無様。

だがこれでいい。
これでお前は、私と同じ過ちを犯すことはないだろう。

そして感謝しよう。

冷たくなってゆく屍を抱きしめて。

私はこれで本当に

狂えたのだから。





悪夢から目を覚ます。
寝間着代わりに着ていたシャツがうっすらと濡れている。

今のはあくまでもただの夢。

しかし漠然と。

それがあり得たかもしれない、ある一つの結末であると。

理解して心の奥底が震えるようだった。

その震えを納めるように、隣で寝ている筈の少年の姿を確かめる。
静かな呼吸の音が、何よりも私を落ち着かせてくれた。

あの悪夢。
あり得たかもしれない、ある一つの結末。
あるいは、それは英霊エミヤの記録として既に残されている事なのかもしれないが。


ふぅ、と一つ息を吐いて。
私は自分の胸元に手を当てた。

この胸には、彼の寄こした傷跡。

この傷が有る限り、私は答えを忘れずにいられるだろう。

願わくばこの傷が
この少年のものとならないようにと。

いつまでも祈りながら。




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