居眠り (イラスト:ペキ 文:椎名)


「今日のノルマはこの本一冊読破。いい? 」

なんて遠坂が言い残して部屋を出ていってから2時間ぐらいたったのだろうか。
渡されたのは一冊のやや厚めの魔術書。
といっても、入門編のような簡単な知識が書かれているような物だけど。
弟子の身としては取りあえずノルマと言わればこなさなくてはと、
眠くなりそうなのをなんとか堪えてさっきからひたすら本に目を通しているのだが。

驚いた…
いや何が驚いたって…
(…アーチャー…寝てる…?)
向かいのソファーにゆったりと腰掛けて、頬杖をついて目を閉じている男が一人。
それが心地良さそーに小さく寝息を立てていたりするもんだから…
思わず本から目を離して見入ってしまった。
(…そうだよな…サーヴァント…だって一応寝るんだし…)
でもなんというか…
この男に限って人前で眠る、なんてあまり想像が付かなかったから。
なんとなく珍しい動物でも見ているような気分だった。
その珍しい寝顔をもうちょっとだけ良く見ておきたくて、少しだけ顔を近づけた。


「なんだ?」
「のあぁ!?」




お約束。




「お…起きてたのか?」
不意打ちに軽くパニックしている頭でなんとか冷静を装ってみる。
アーチャーは何故か驚いたような顔をして、
「…眠っていたのか?」
どうやら自覚してなかったようです。
「…いや…なんていうか…たぶん、寝てたんじゃないか?」
小さく寝息が聞こえたし…
アーチャーは小さくため息をついて、
「…ふむ…普段なら…こんなことはあまりないんだがな…」
どことなく拗ねたような態度で

「どうも…お前といると眠くなる…」


なんでさ。


一瞬意味が分からず、取りあえず心の内で突っ込んでおく。
「なんだよ、それって俺といるのが退屈ってことか?」
ちょっとだけ皮肉を込めて言ってみる。
…別に拗ねた訳じゃないけど。

…たぶん…

「…なぜそうなる…」
俺の出したほぼ間違いなさそうな結論に、アーチャーはなぜかジト目で返した。
眠くなるって事は退屈ってことなんだと思うけど。
などと勝手に思案する俺をよそに、アーチャーはあの独特な皮肉った笑みを浮かべると、

「…なら、お前は退屈か?」
なんて言ってきた。
「ふぇ? 」
今度こそ本当に質問の意味が分からずに返答に困っていると。
「あ! こらお前! そこ笑うとこじゃないだろーが!」
くっくっくとか笑って人を馬鹿にしてるな絶対。
「いや、本当にお前は退屈しないな衛宮士郎」
…えーっと…

結論。
要するに人をからかって楽しんでいやがる様です。
「…まぁ別に良いけど…」
そこで腹を立てては何を今更、である。

「あ、ひょっとして…」
ふと。アーチャーの眠気の原因に思い当たった。
「アーチャー、ひょっとしてお前、毎晩の寝不足が祟ってるんじゃないか?」
正直俺もこのところ連日なので大分堪えているのだが。
「ふむ…そんなつもりはないんだがな…」
悲しいかな、疲れや寝不足なんて本人の知らない内に貯まってしまうものだ。
「でも眠いなら寝とかないと。今晩辛いぞ?」
いくら体力が化け物並のサーヴァントとはいえ、毎晩休み無くではさすがに寝不足にもなるのだろう。
「…そうだな…お言葉に甘えるとしようか…」
言ってアーチャーは、ソファーに座り直した。



「しかし…いつまで続けなきゃいけないんだろうな…毎晩の偵察…」
「…さぁな…聖杯戦争が終わるまで続くんじゃないのか?」
アーチャーの当たり前な回答に、ちょっと憂鬱な気分でため息をついた。



気が付くと。
いつの間にかまた小さな寝息が、向かいのソファーから聞こえてきた。

「別に退屈…じゃないけどな…」

今度はさっきより眠りが深いらしい。



帰ってきた遠坂が、珍しそうにアーチャーの寝顔を眺めて、次いで俺と見比べてやおらにやにやと笑いながら、
「ふぅん…士郎、随分とアーチャーに信頼されてるのねー」
開口一番そんなことを言った。
なんでさ?と心の底からの疑問を問い掛けると、
「あら、だってアーチャー、私の前でもこんなふうに無防備に眠ったりしないもの。」

それで――なんとなく解かってしまった。
「違うと思うぞ遠坂」
遠坂は信頼されてる、なんて言ったけど。
「たぶんさ、アイツ、俺の事は護るべき対象として見てないんだと思う」
だからこそ。
気を緩められる。

「そうね。でもそういうのも、ある種の信頼、でしょ?」
そう言う遠坂の顔は、どこか優しげだった。
そう言われるとちょっと照れくさい気がしなくもなかったけど。
いつも張り詰めてるようなあいつが気を緩めてくれてるんだって思えば…
そんなのもまぁ…
悪くないかもしれない。




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