日記掲載ネタ〜弓士編〜 4


12 (ペキ)

課題が、終わらない。

ここ数日、すっかり日常から解離していたからうっかりと忘れてしまっていたが。
衛宮士郎は、学生なのである。
そして、いくら校舎が破壊されて学業が休みになっていようと、課題というものは出ているわけで。

ようするに、明日からの授業再開に対し、何の課題も提出できる状態でない、と言う事。
気分は、夏休みの宿題を最後の日にやる学生だ。
俺は早めに終わらせてしまう性質なので、絶対にそんな心境を味わうことなどないと思っていたけれど、人生解らないものだ。

同じく学生である遠坂に援軍は頼めない。今頃は俺と同じ状態のはずだ。
一成にも頼めない。俺が課題をやっていないなんて、何があったのかと心配されてしまう。
セイバーは戦力外。桜も学年が別なので意味はない。虎は(以下略)。

しかし、最大の戦力自体は、目の前にいるのだ。
……味方に引き込めれば、の話だけれど。


「手伝え」
「断る」

即答かよ。解り切った答えでした。
イヤ、もう少し予想外の答えとかしてくれると俺としても嬉しかったんだけど。
大体、マスターに向かってその返事ないんじゃないのか?
手伝いしない使い魔なんて、単なるタダ飯ならぬタダ魔力食らいだぞ。

「お前にも、この状況の責任の一端はあるだろ!?」
「仮に百歩譲って責任が私にあったとしても、課題そのものを私がやったのでは学業の意味がないだろう。
 家事を代わりにやるくらいは許容してやるから、さっさと片付けてしまえ」
「だーかーらー! さっさと片付けられてりゃ誰もお前に頭なんか下げるか!!」
「……いつ頭なんぞ下げていた。 とにかく、私はそれに関しては手伝わん」

そういって、さっさと洗濯物を取り込みに行ってしまった。
確かに、家事をやってもらえるのはありがたいけれど、それ以上に今はこの目先の問題なんだよ。
しかも、期末テストの代わりにコレなんだぞ?
留年したらどうしてくれるんだ。 明らかにピンポイント某教師からヤバ目な咆哮が聞こえるぞ、絶対。

ぶつぶつと文句を言い続けてみるが、赤い背中はこちらを振り返らない。
たまには過去を振り返ってみろってんだ。間違いなんかじゃないんだぞ、こら。
……仕方ない、文句を言う余剰の思考があるなら、今は課題に集中しないと。
そうして、思考は数式の渦中へと飲まれていった。



現在、深夜二時半。
課題残り、5割強。

うわ、まずい。マジ終わらないぞコレ。

「……全く、たわけが」

気が付くと、後ろにアーチャーが立っていた。
この表情は、『仕方がないな』、といった時の顔だ。
と、言う事は。

「手伝ってくれるのか?」
「……あいにくと、数式なんぞもう覚えておらんぞ?」
「いや、いい! 数学はもう終わるから! お前にしか頼めないものがあるんだ! 頼むからそれをやってくれ」

そういって、真っ白い原稿用紙を数枚手渡す。
イヤ、ホント助かった。まさにこの手のものは、俺の筆跡と同じであるアーチャーにしか頼めない。

「……? 感想文か何かか?」
「いや、論文。テーマは『これからの自分の進む道』」

あ、アーチャー吹いた。

「え、衛宮士郎―――っ!!?」
「何だよ? 一体」
「たわけが、言わねば解らんか!? それは、オレにかかせるようなモノではないだろう!」

一人称が変わってるぞ、アーチャー。
気が動転しすぎだ。

「なんでさ? お前にぴったりじゃないか」
「……私とお前では、もうすでに別の道を歩み始めたといったのは、他ならぬお前だろう」

それはその通り。
俺とアーチャーはもう別人だ。俺がコイツと同じ道を歩むなんて、ありえない。
だけれど。

「でも、アーチャーがこれから歩みたい道っていうのは、多分俺と同じだと、思う」

違うか? と、見上げる。
一瞬息をつまらせたアーチャーは、しかしすぐに深いため息を付いて

「……どうなっても知らんぞ」

と、ペンを握った。

悩みながらも、アーチャーが筆を進めたそれは。
やっぱり、『えみやしろう』が書いたものに他ならなかった。


俺の進む道、俺たちの選ぶ道。
――俺と、アーチャーが、二人で歩むと決めた、道――。





13 (椎名) ※微妙に12に続いてます 


夕食後、ミカンの山を築きながら藤ねぇがやおら心配そうに俺の顔を覗き込んできた。
「どうかって…別にどうもしないけど?」
「そぉ?なんだか一日中ぐてーっとしてるんだもん。具合でも悪いのかと思ったよ。」
「…あぁ…それでミカン箱また一個追加だったのか…」
ただでさえ大量に残っているというのに、何を思ったか藤ねぇは更に箱入りのミカンを連れて来た。
疲れていたのと夕食の準備で忙しかったせいで、あまり深く追求しなかったけど…
「そうよー?士郎が風邪でも引いたんじゃないかと思って姉ぇちゃん気ぃ利かせたんだからー。」
えっへんと無駄に胸を張るバカ虎一匹。
藤ねぇ。そぉいうのを世間一般的にはオセッカイと言うんだと思うぞ。うん。

「まぁ気を使ってくれた事には感謝するけど…別に風邪とかじゃないから平気だぞ?ただ昨日課題が終わらなくて遅くまでやってたから疲れてただけだ。」
せっかくなのでミカンを一個手にと取った。
「そぉ?まぁ結構あったみたいだからみんな今日は寝不足だったみたいだしねー。」
…課題…一番出してくれやがった非道教師がそれを言いますかどちくしょう。

「あ、そうそう、課題で思い出した。学年課題で出ていた論文、読ませてもらったけどあれ本当に士郎が書いたの?」

ぶ。

危うく口に含んでいたミカンを吹き出すところだった。
慌てて飲み込んだせいで喉が痛いってそれどころじゃないだろ俺!

「な、何言い出すんだよ藤ねぇ!俺以外のだれが書いたって言うんだよバカ教師!」
「む!先生に向かってバカはないでしょバカはー!」
「生徒を変に疑うような薄情教師にバカって言って何が悪い!」

尚も藤ねぇはむーっと唸って食い下がる。
「だってー、あれ微妙ーに士郎っぽくなかったんだもん。」

さすがわ冬木の虎。
スキル『野生の勘』はこんな時ばっかり冴えていらっしゃる。

「そ…そぉかぁ?俺は俺なりに考えた事を書いたつもりだけど…」
適当なごまかしはするまいと、当たり障りのない言葉を手繰り寄せる。
「んー、まぁ別に疑ってるわけじゃないんだけどねー、ただちょっと昔の士郎を思い出しちゃった。」
「昔の?」

ふいに居間の襖が開かれ、風呂上がりのセイバーが姿を表現す。
「タイガ、風呂が空きましたが。」
「はいはーい。じゃあ士郎お先にー。」

ちなみに藤ねぇは、明日も朝早いとかで今日は衛宮家に潜伏する模様。
にこにこと手を振って風呂場に向かう藤ねぇを見送って、俺は一つため息を着いた。
「どうかしたのですか士郎?」
「いや…どうもしないから放っといてくれセイバー…」
どうしようもない疲労感に、俺は取り敢ずミカンを一房口に放りこんだ。



「…で、お前論文に何書いたんだよ?」
「なんだ?提出前に読まなかったのか?」
早速問い詰めに言った俺に、アーチャーはお得意の呆れ顔で答えた。
「そりゃそうだけど…なんとなく読読みづらかったんだからしょうがないだろ!?」
あくまで自分以外が書いた物である、という以前に。

無意識のうちに読むのを避けていた。
正直。
少し怖かったのかもしれない。
何がって言われると困るけど。

「どうなっても知らないと言っただろう。いまさら文句を言われる筋合いはないと思うんだがね。」
「あう…」
それを言われると痛いところではあるが。
「…藤ねぇがな、昔の俺を思い出しちゃったてさ。だから何書いたのか気になったんだ。」
「昔の?」
アーチャーは少し考え込むように手を口元に当てた。

「あぁ、確かにな。昔の衛宮士郎、か。なかなか当を得ているかもしれんな。」
「うあますます何書いたのか気になる!」
アーチャは腕を組むとにやりと笑い、俺を見下ろす。
「ふむ。私の口からは教える気にはなれんな。知りたいのなら論文が帰って来てから読めばいいだろう。」
「うあムカツク!あれ意識調査も兼ねてるし当分帰ってこないんだぞ!」
「そうか。それは良かったな。」
「良くない!」


論文の一文にはこうある。

『これから先の事は、考えてもしかたのない事かもしれない。しかし自分は、何があっても後悔しないように進路を選びたいと思う。』

そう。
後悔などはさせない。

そのために
私がいるのだから。





14 (ペキ)

神様とか仏様とか、そういうのはあまり信じていない。
神様の存在を全否定しているわけじゃないけれど、積極的に信仰してはいない。
確かにたまには「神様!」と祈りたくなる時ってのもあるけれど、基本的にはそういう存在に頼らないで行きたいと思う。
もし、神様がいるのだとしても、その存在はきっと万能ではないし、絶対的なセイギのミカタでもないだろう。
「世界」やら『』みたいに、ひどく偏ってるか、もしくは全くの中庸かに違いない。
あの赤い光景や今までの運命の皮肉を考えれば、それでも神のご加護を信じてる、等と言えるほど純粋ではいられない。
俺の隣にいるヤツも、「目の前に現れたら、うっかり胸倉をつかんで色々な些事について問い詰めたくなる程度には信じている」と、概ね同意見。

だけれども、それとコレとは話が違うわけで。
やっぱり、日本人である以上、新年のお参りは欠かせないものなのだった。


「まあ神社の神様は、八百万の神だから精霊に近いんだろうけど」
「だろうな。その土地その土地に憑く、タタリをもたらす存在を神として崇めたものだ。
 狗や狸、狐を祭ったものも神の社となっているからな」

柳洞寺とは正反対の方向の、かなり小さめの神社。
家と家との間にひっそりと残っているこの神社が、衛宮家の年始参り先だ。
柳洞寺に行くという手もあるのだが、年始参りは神社という世間の慣習にのっとり、毎年ここで行っている。
……まあ、柳洞寺はご年配の方々で非常に混んでいて、圧死の恐れがあるから辞退しているというのが本当の理由。
その点、ここの神社は、年始でもひどく空いている。
人がいないから、という理由だけで無しに、静謐な空気が流れているというか。
決して柳洞寺がそうでないというわけではないのだけれど、今の時期は別だ。


軽く一礼をして、鳥居に入る。

手水舎で一通り手を清め、昨年買った破魔矢を「お焚きあげ」している火にかける。
雷画の爺さんに言わせると、「お焚きあげ」は大晦日に行うか、1/14に行うのが正しいらしい。
まあ、そこまできちっとしたいわけでもないし、火もそういう人のために7日まではずっと焚いてある。
略式なのは、ここに祀ってある神様にも大目に見てもらうってことで。

一足先に神前に行っていたヤツの隣に、あわてて並ぶ。
コイツは人の事を待ちもしないで、さっさと手を合わせていた。
俺もあわてて鈴を鳴らし、二拝二拍手。
手を合わせ、何となく目をつぶる。
はて、何を祈ろう。
とりあえずは皆の無病息災、家内安全。いや、もちろん家外も安全で。
こういうのは、神様に祈るというよりも、心に願うことでその意思や想いを強く認識することが肝心だ。
それと、ちょっとは願掛けの意味合いも込めて。
後、他に願う事は。

ちらりと横を見る。

俺より先に祈願を始めたはずの男は、まだなにやら祈っている。
この男には、そんなに願う事が多いのだろうか。
まあ始終眉間に皺を寄せているコイツの事だ、難しい事ばかり考えてるに違いない。

仕方がないので。
隣の男が幸せであれますように、と、祈っておいてやった。

参拝も終わり、今年のための破魔矢を買うことにする。
コレも、例年の行動。
信じる信じないという感覚では無しに、松飾を買うのと同じ、習慣みたいなものだ。
思えば、前回の破魔矢には払いきれないほどの魔や邪の相手をさせてしまった。
そして隣にも、邪というか魔というか、それっぽいのが1人。
今年の破魔矢は、立派なのを買わないと。
まあ、おそらく効果はないだろうけど……。

と、売り場内の破魔矢を一通り見てまわっていると、一際大きな朱が目に付く。
一瞬の躊躇もせずに、それを手に取る。

「へぇ、こんなのあったんだ」
「ほう、矢だけではないのだな」

ヤツも、珍しそうにこれを覗き込む。
一際大きなもの、それは、朱塗りの弓とセットになった、破魔矢。

「弓破魔っていうんですよ」

売り子の、妙齢の巫女さんが話しかけてきた。

「お正月には、本来女の子は羽子板、男の子は弓破魔を飾るんです。
破魔弓とも言いますね。
最近では、破魔矢だけ飾る所が多いし、こういった売店では高価すぎてあんまり売れないんですけれど」

どうやら今年だけのインスタント巫女さんではないらしい。
値札を見れば、なるほど、確かに安価とは言いがたい。が――

「――じゃあ、コレを一つください」

残念なことに、俺の心は決まってしまっていた。
財布の中から、貴重な諭吉さんを明け渡す。
正直、正月早々ちょっときつい出費だ。

「……そんな高価なものを買ってしまって、どうするつもりだ?」
「いいんだよ、高価って事は、それだけご利益があるかもしれないし」
「信じてもいないくせに、よく言うものだ」
「……うるさいな、罰当たり」
「もうすでに、十分罰はあたっている。何を今更」

話しながら、歩き出す。
手には、朱い破魔の弓。隣にも、赤い破魔の弓。

今年は、随分とご利益がありそうだ。

――――

「で? お前、何祈願したんだ?」
「たわけ、言ってしまっては祈願にならんだろう」
「ああ、そういえばそうだな」
「どうせ、お前の願ったことと、大して変わらんよ」

今年一年、皆が、あなたが、幸せでありますように。




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