日記掲載ネタ〜弓士編〜 5


15 (ペキ)

「で、何だってんだ、コレ?」
「見て分からんか?」
「分からないと思うか?」
「……」

テーブルの上には、白い物体がつまったビニール袋が、多数。
折り重なるようにいくつも置かれ、ちょっとした標高を作り上げているそれをもって帰ってきたのは、他ならぬ隣にいる男だった。
だというのに、持って帰ってきた本人も苦渋に満ちた表情をしているのは何故だ?

「……安かったので、いくつか買おうと思ったのだ」
「で、"いくつか"が何故こんな大量に?」

数えてみると、計八個のビニール袋。
明らかに、買いすぎというものだ。そもそも、コレをそんなにつかわないと思うのだが。

「商店街の、小売店で買ったのだが」
「ああ、あの気風のいいおかみさんの」
「大量に、オマケをしてくれてな。……二倍ほど」

……何となく、その絵柄の想像がついた。
押しの強い、気のいいおばさんがニコニコしながらどんどんと袋にオマケを押し込んでいく。
それも、純然たる善意で。
そして、それを断りきれない男一名。
何となく涙がこみ上げてきそうだ。
俺もそうなったら多分同じ道を歩むんだろうなってあたりが、特に。

……それにしても。

「甘いもの嫌いじゃないけれど、ここまで多いと、なぁ」
「……とりあえず、思いつく限りの利用先は買ってきてはみたが」

と、未だ手に持っていた方の袋を指し示す。
中身は珈琲と紅茶、ポップコーンの元、ヨーグルト、卵に牛乳、クリームチーズとホットケーキミックス……若干俺の知らないレシピはありそうだが、確かに色々なバリエーションが期待できそうだ。
だけれど。

「でも、安いから買ってきたのに、バリエーションのために余分なものまで買い込むのは、思い切り本末転倒だよな」
「……」

そんなこと、俺に言われなくたって分かっていたのだろう。
眉間に皺を寄せながらも反論してこないあたり、今回は完全にアーチャーの失態だ。
ここでヤツの責任を責めるのも、それはそれで楽しそうだけれど、あまり意味がない。
とりあえず、問題はまさに眼前に山積み。

ちらりと時計を見る。
時刻は只今午後2時。オヤツ時には少しある。
幸いな事に、甘いもの好きな女性陣には事欠かない。

「時間もあるし、今から何か作るか?」
「……そうだな、とりあえず保存の利くものをいくつか作るとしよう」

ビニール袋をいくつか持って、さっさと台所に赴くアーチャーに、俺も続く。
とりあえずは、俺の知らないレシピをコイツから聞き出すことから、始めるとしよう。


その日の午後のティータイムは、主材にふさわしい、ふんわりとして甘い一時となった。





16 (椎名)


「む…もうちょ…い…」
つま先がつりそうな程に背を伸ばし、指先が痺れそうな程に腕を伸ばし。
まぁ自分は、他の同世代の男子に比べればまぁ普通よりやや低めだという事は分かっていたが。
こういう時は自分の身長の低さを呪ってしまう。
ましてや。

「これか?」

この男に、あっさりと目的の位置にあった本を取り上げられてしまったりすると。

「む…そう…だけど…」

憮然とした態度で本を受け取りながら、改めて目の前の男のがたいの良さに思わず奴を見上げてしまった。

奴は一瞬顔をしかめたかと思うと、今度あのは嫌味ったらしい笑みを浮かべて俺を見下ろしてきた。

「ふむ。確かにお前は小さいが。別段気にするほどではないぞ衛宮士郎?」
心底見下してくれていやがるようです。

「うっさい!いつか追いついてやるから見てやがれってんだっ!」

荒々しく本を受け取ると、踵を返してスタスタを奴の前から歩み去った。

取りあえず、帰りに牛乳を忘れずに買って帰ろうと心の自由帳に書き留めながら。





17 (ペキ)

「お前が、殺れ」

アイツは、そう言って俺にその武器を預けた。
その目は、逃げる事を許さない。
遠坂は、見ていられないのかいつの間にか消えていた。

……確かに、コイツの存在を許してしまったのは俺自身。

だからオレがやるしかない。ましてや、アイツにやらせるわけにもいかない。
皆を、この程度の存在の事で煩わせたくなどないから。

――仕方が無い。
ぎゅっと手の中の武器をにぎりしめる。深呼吸を二回。

ヤツは、その俺達のやり取りの前ですら、微動だにしなかった。
まるで、俺達の存在など気にも止めていないかのように。
……それが、ひどく、癇に障った。



俺はヤツに対し、引き金を引いた。
一回、二回、三回。
ヤツはその度に跳ね、初めて危機を理解し、逃げ惑おうとした。
しかし、遅い。

四回、五回。
ようやく、ヤツの動きが緩慢になる。
そして、ヤツが息絶えるまでの長い一瞬を、目を反らさず見つめ続けた。
どのような存在であれ、一つの命を俺が絶った事だけは事実、最後まで見届ける義務がある。


……こうして、俺の戦いは終わった。

死体は、幾重にも包んで、暗いそこに放り込んだ。数日後には、火葬されるだろう。
不思議だ、あれほどまで忌み嫌っていたはずなのに、今ではヤツに何の感慨も起きない。

「……次からは、もっと上手くやるのだな」
「……何言ってんだよ。次なんて無い。
 もう二度と、あんな存在がここにいるのを許すもんか」
「ほう? 大した意気込みだ。
 しかし、もうすでにアレらは数多くはびこっているだろうよ。
 アレはそのうちのただ一つに過ぎぬ」

そう言って、こちらを見下ろしてくる、アーチャー。
どうする? と、その目はこちらに問いかけてくる。

……そんなの、決まっている。

「……わかってる。明日、全部殺すよ。掃討作戦だ」

彼女達の、笑顔のために。

その言葉に、アーチャーは鷹揚にうなずいた。

「では、明日は大掃除だな。やれやれ、一苦労だ」

なんて、口ではいいながらも、その顔には笑みが浮かんでいた。
結局の所、こういう汚れ仕事を、アイツは好きなんじゃないか。そんな考えが浮かんだが、それこそ、どうでも良かった。

ただ、俺は。

あんな存在が、ここにいた事に。
アレの存在を許してしまった俺自身に。
ひどく、打ちのめされていたのだから。





「ちっくしょう!!!
 次からは家中の掃除の頻度を増やすぞ!!
 あと、ばる○んも焚く!」
「ゴミ処理も、もっと徹底的にやるべきだ。
 この時期は特に傷みやすいからな」

こうして、正義の主夫二人は、家中の害悪撲滅に燃える。







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