お正月弓士 BY椎名


  年も明け、心も新たに気持ちの引き締まる正月。
 天候にも恵まれ、実に素晴らしく穏やかな新年を向かえ、気持ちも清々しい事この上ない。
 居間では毎年恒例で気合の入ったお雑煮や御節をキレイに食べ尽くしてくれた面子が、のんびりと垂れ流されるテレビの正月特番をこれまたのんびりと湯飲み片手に眺めている。
 一通り後片付けを終え、自分もミカンでも食べつつお正月気分を満喫しようと居間へ戻る。
 和やかムードの居間の住人の中、見つけるターゲットのいつもと変わらぬ仏頂面。
 正月ぐらいニコニコしてればいいのに、とは思うけど、そんな事間違っても口にすればどうなるか分かったものではないので心の内に留めておく。

 ――と、せっかくなので居間で落ち着く前に、今年初めの一勝負と行こう。
 思い立ったら即実行。
 俺は再びキッチンへと向かった。

「はい、みんなお茶の御代わりー」
 新しい茶葉に湯を注いだ急須とお茶請けの追加を携え台所から戻り、居間で待ち受けていた面々に声を掛ける。
「あら、気が利くじゃない士郎」
「今回はいいけど、あとで紅茶も入れてくれるかしら?」
「姉ぇさん、我侭は良くないです」
「いいのよ、士郎だし」
「えと……否定はしませんけど……」
 しないのか桜。
「士郎、その、お煎餅もおいしいのですが……そろそろ甘い物を摂取したくなったのですが……」
「ん? あぁ、じゃあお昼の後で取って置きの和菓子出してやるからな」
「ほう、それは頼もしい。期待しています士郎」
 口々に自由な事をのたまう連中を適当にあしらい、俺は皆の湯飲みに入れたばかりのお茶を注いで行く。
「アーチャーもお茶、御代わりどうだ?」
 御前に楚々と膝を突き、さりげなくアーチャーに声を掛ける。
「あ、あぁ」
 一瞬びくりと身を強張らせたものの、アーチャーはす、と空になっていた湯飲みを俺に差し出した。
 よしよし、と軽く頷きこぽこぽと深い緑も鮮やかな緑茶を注いで、アーチャーの前に置いてやる。
 すまんな、なんて珍しく素直に例の言葉を述べて、アーチャーはお茶を一口啜った。
「ふむ……悪くはないが、これでは冷めてしまった時の渋みはとてもではないが飲めた物ではなかろう。もう少し丁寧にじっくりと淹れなければ、この茶葉の良さは最大限引き出せんという物だ。ついでに複数分入れるなら少しずつ順番に回数を分けて注ぐのは常識だろう。まだまだ甘いな、衛宮士郎」
 何時も通りの皮肉に、何故かほっとしてしまうから不思議である。
 皮肉言われてもぜんぜん嫌な気がしないのは何時もと違ってツンツンオールバックじゃなくてふさふさ前髪下ろしてて雰囲気違うからとかではない筈だ。
 たぶん。
「ふむ、確かに……お茶っ葉の量とか細かく気にしてなかったかもな……」
「?」
 小首を傾げるアーチャーを他所に、俺は一人うんうんと頷き、
「よし、今年の目標その一! アーチャーに合格点貰えるようなお茶を淹れられるように精進する!」
 ささやかな目標を胸に抱き、俺はぐぐ、と拳を軽く握った。
「ちょ、ちょっとまて! そんな事など一年の目標になんぞ掲げてどうする!」
 なぜかそんな事を言って慌てるアーチャー。
「なんでさ。俺に取ってはすごい大事な事だぞ? お前に負けっぱなしだとやっぱり悔しいし」
 取り合えず素直に自分の気持ちを述べただけなのだが、アーチャーは「勝手に言っていろ」などと呟いたきり黙りこんでしまった。
 今年も早々、合格点はもらえそうにはないだろう。



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