web拍手ネタ〜槍弓編〜6

2007バレンタイン

18 (絵:ペキ 文:椎名)






「なぁ、アーチャー」
掛けられた声は、心なしか歯切れが悪く。
「何だ?」
ぶっきらぼうに、しかし律儀に返事を返す。
この調子でランサーが言い出した事は大抵ろくな事ではないのだ。
脳裏を過ぎった嫌な予感に、しかし冷静を装い内心身構えて、アーチャーは返事を返しランサーへ視線を向けた。
「お前さ、どういうチョコが好きなんだ?」
チョコ。
正確には、チョコレート。
あのほろ苦くも独特の甘さで何時の世も人々を惹きつけて止まない、あのチョコレートの事だろう。
「なぜそんな事を聞く。それもこういう時期に」
折りしも直は二月中旬。
いわゆる、バレンタインデー間近である。
「なぜってそりゃ。上げようと思って」
「誰にだ……」
「お前しかいねぇだろ」
さも当然、と小首傾げるランサーに、アーチャーはいよいよ眉根を寄せて項垂れて。
「ランサー、一つ言っておくが」
軽く眉間の辺りを押さえつつ、溜息混じりにかぶりを振った。
「他の国ではいざ知らず、取りあえずこの国ではバレンタインは女性から男性へチョコレートを渡すのが一般的なのだが」
突っ込み所はそこで良いのか、という突っ込みが聞こえてきそうではあるが。
「いいじゃねぇか、男から上げたって。むしろそんな事気にするのってこの国くらいなんじゃねぇのか?」
言われるまでもなく、日本のバレンタイン文化こそ変則的である事ぐらい、アーチャーも理解してはいる。
いるのだが。
「それでも私は一応この国の出なのでな。気にするなという方が無理だ」
言い放ち、ランサーの反応を伺うアーチャー。
「ちぇー。何だよ、愛する相手に想いを伝えたいっていう俺の気持ちは無視かー?」
不満そうにさらっと割と恥ずかしい事を言ってのけるランサーの上目遣いの視線を受け流し、アーチャーは一つ溜息を吐いた。
「それに、だ……」
視線を明後日の方向へと泳がせて、アーチャーはポソリと呟くように言葉を紡ぎだした。
「この場合……私がお前に渡すべきではないのか?」

しばし流れる、微妙な間。

「それって……くれるのは良いって事……」
「言葉のアヤだたわけぇぇ!」





19 (椎名)


「はぁぁ……」
「どうしたランサー、悩み事とは珍しい」
「んな。酷ぇ、人をお気楽能天気みたいに言うなよな」
「違ったか?」
「お前な、俺にだって悩みの一つや二つあらぁ」
「ほぉ、それは中々興味深いな」
「うわ、なんかすげぇ皮肉った顔だし……て興味深いって何だよ」
「思案所は迷わず迂回するか無視して突っ切るようなお前の悩み事だ。これが興味をそそられなくてどうする」
「あのな、、俺を何だと思ってるのかなアーチャーさん」
「見たままだと思っているが?」
「せめて楽天主義の塊とかさぁ……」
「自分で言うなたわけ。……で、一応聞いてやるが、何を悩む?」
「え? そりゃあなぁ。どうやったらお前がエプロン姿で王道の出迎えてしてくれるかなぁとか?」
「死ぬまで悩んでろたわけ!」





20 (ペキ)

<<<<オカエリバス>>>>

到着予定時刻は6時。

差した傘を持ち直し、手にぶら下げたもう一本の傘をずらして腕時計を見る後。
後数分でこのバス停に到着するだろうことを確認し、男はタバコをもみ消した。フィルターはそのまま、携帯灰皿へ。

待ち人は別段喫煙を嫌ってはいないが、路上でタバコを吸うと言う行為に関しては酷く厳しい。
歩きタバコなぞしようモノならば文字通りの鉄拳制裁を覚悟せねばならないほどだ。
曰く、「成人男性のタバコを手に持つ高さは、丁度幼児の目線の高さと一緒だ。その火が目に触れ、失明してしまった子供もいるのだぞ」。
以来、男はタバコを控えた。歩きタバコだけでなく、こういった道の上全てでの喫煙を。
彼は英霊であるから、持ち前の気配察知能力から幼児をその様な目にあわせる筈もないが、待ち人の言いたかった事は自分が煙草で誰かに怪我をさせてしまうと言う可能性ではなく、自分が吸っている姿を見て他人も吸い始めるかもしれないという事だ。

よって男が喫煙する時は、今のように何処か一箇所に留まる時、かつ喫煙のために灰皿が備えられている場所となった。
しかも備え付けられた灰皿を使用せず、携帯灰皿を使用する。意味がない行為かもしれないが、こうした方が公共機関の灰皿を使うよりクリーンなイメージだからだ。自己満足かもしれないが。
しかしバス停と言う物は喫煙と禁煙が極めてグレーゾーンと言わざるをえない。
路上ではあるが、停留所でもある。
灰皿が備え付けてはあるが、仕切りがない以上嫌煙者に迷惑がかかるだろう。

結論として、停留所に誰もいない間なら吸ってもいいだろう、と男はマルボロをつけていた。

消してから10秒、20秒、と緩やかに時が流れ。
早くも男は後悔をしだしていた。

「ち、消すんじゃなかったか……」

バスが見えてから消しても、十二分に間に合っただろう。
口寂しくなると、待ち時間も当然長く感じられる。
悪い事に雨足も段々と強まっているようだった。
彼の自慢の髪先が、傘から少しはみ出てしとどに濡れてしまっているのが気になり始め、だんだんと苛立ちが募る。
機嫌のいい時は雨音もメロディのような物だが、不機嫌な時は単なる不快な雑音でしかない。

別に彼は待つと言う行為を嫌いではないのだが、もう直ぐだと思っていたのに待たされる、となれば話は別だ。
待ち人にもう直ぐ会えると期待していた分、待ち時間の長さも苛立ちも増す。
時計を見なけりゃよかった、と傘を再度持ち直し、あらためて懐から煙草をとりだして……

「お」

視界の端に一際明るい光が見えた途端、相好を崩す。
慌てて懐に煙草をねじ込みなおし、濡れた髪の毛を軽く手櫛でセット。
先ほどの子供が見たら泣き出しそうな凶悪な顔など知らぬと言わんばかり、顔は弾む心中そのままの明るさ。

目の前で停止したバスから下りてくる人物に、男は傘を差し出しつつ、最上の笑顔で笑った。


「おかえり、アーチャー」


「メイと五月か、君は」
「誰だそりゃ?」




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