web拍手ネタ〜槍弓編〜7

21 (椎名)

 おかしい。
 何かがおかしい。
 いや、何がおかしいって。
 ソファーに腰掛けて新聞を広げ、油断しきっていた所を見かけ。
 これはチャンスとばかりに背後から抱き付いてみたのだが。
 いつもならコンマ0.5秒で対俺用迎撃アッパーが炸裂するのがお約束。
 当然そんな事覚悟の上での行動であったのだが。
 どういう訳か今日のアーチャーさんは一瞬ピクリ、と肩を強張らせただけで抵抗しようとはしなかった。
「……何か変な物でも食ったか?」
 思わず問うも、相手は無言のままである。
「あの、アーチャーさん?」
 もう一度呼びかけて帰って来たのは深い溜息。
「別に……お前と同じ物しか口にしていないが」
 後ろを向いたままなので表情までは見て取れないが、その声から呆れ顔、なのだろうか。
「あー、何というか。なんか様子が変だからよ? 」
「私はいたって正常だが、何か?」
 いつもの無愛想さ全開で言い放つアーチャー。
「いや、ほら、いつもならこんな事したらコークスクリューの一つも飛んで来そうなもんなんだが」
 言って恐る恐るアーチャーの顔を覗き込むと、頬を僅かに朱に染めて恨めしそうにこっちを睨むアーチャーと目が合った。
「そうして欲しいならご要望にお答えするが……?」
 えーと……要するに羞恥心に耐えるという何とも可愛らしいマネをしてくれた様です。
「アーチャー、ひょっとして誘ってんのか?」
「ふん、誰が。私が誘おうが誘うまいが勝手に盛ってるだろうがお前は」
 いよいよ耳まで真っ赤にしてそんな事を言われては、知らず口元も綻ぶという物で。
 オレは思わず、アーチャーの肩を抱く腕にギュウ、と少しだけ力を込めた。
 取りあえず最初にどこへキスしてやろうか、なんて考えつつ。





22 (椎名)

 平和、という言葉が何とも似合う夜の一時。
 衛宮家の居間は実に穏やかな空気に包まれ、今日もそろそろ一日が終わろうとしている。
 何杯目かのお茶と、幾つ目かのミカンを口に頬張り、士郎はふぅと息を付く。
「平和だなぁ」
 ぽつりと漏らしたつぶやきに、正面に姿勢良く正座したセイバーと、士郎と同じくのんびりとお茶を啜っている凛も満足そうにこくりと頷き息を付く。
「ほんと、いつも通り平和な夜ねー」
「えぇ、いつも通り、士郎の淹れるお茶も大変美味しい」
 平和な夜を象徴する様に、外からは微かに聞こえる、どこかの猫達の鳴き交わす声。
 そして――

 どたどたばたどがめきびたーん

 やたら派手な音を立てて襖の戸が蹴り飛ばされ、それを飛び越えしゅた、と部屋へと着地する人影一つ。
「む、すまない、後で直す……!」
 赤い人影はそれだけ言い残すと居間を通り過ぎ、廊下を行き過ぎ中庭へと走り……否、飛び去った。
 その姿が消えるが早いか否か、次いで部屋へと飛び込んで来た新たな人影。
「むぁちやがれアーチャーあぁぁぁぁ!」
 目にも留まらぬ、とはまさにこの事か。
 絶叫と共に赤い人影を追って行く青い人影。
「てんめぇ洗濯物畳むの手伝ったらキスしていいっつたろおおぉぉぉ!」
 後に残るはそんな悲痛な叫びの残響と無残に破壊された襖の残骸。
 そして。
「平和ねー」
「……あぁ、平和だな……」
「平和ですね」
 ずず、と三人のお茶を啜る音だけがしばし居間に流れていた。
 いつもと変わらない、衛宮さん家の日常である。





23 (ペキ)(金士(雑多)の拍手NO25と連動っぽい)

「俺は、お前のことが好きだぞ」

視界の端には、紅茶を飲む黄金の英雄王を、まっすぐ見据えながら好意を告げる赤毛の少年の姿。
その声に、わけのわからない苛立ちと、わずかな寂寥感を覚える。

いつから自分は、アレではなくなったのだろう、と、そう思った。

好意を告げるのに躊躇いを見せない様相はひどく遠く、自分がもう「外れた」存在だと見せつけられるかのようで、胸が騒ぐ。
今の自分は、当たり前の事を当たり前に行うことすらできない歪な人形だ。
相手が英雄のような尊い存在であれば、なおさら。
そうなってしまったのが、アレより長く生きた末の結果だったのか、死後、座で摩耗した末路だったのかも分からない。
ただ、もう自分はアレの様には言葉を紡げないという事実だけが残っている。
そして。

「おーおー、お熱いことだな」

私の目の前には、軽くからかうような言葉を放つ、蒼い英雄。
うらやましい限りだねぇ、と笑う姿に、罪悪感を覚える。

「そんな言葉がほしいのならば、どこか余所でナンパでもしてくるといい。もっとも、君に釣られるような女性などこの界隈ではほぼゼロだろうがね」

口からは、そんなねじれた言葉しか出てこない。言いたいことは、それではなかったはずなのに。
けれど、彼は私のそんな歪んだ口元を見て、やわらかく笑う。

「ゆっくりでいいからな、お前は」
「……何のことかね?」
「いいや? 何でもない」
「……」

彼は何も言わない、けれど、私の隣で笑ってくれる。
だから、歪んだ私でも、いつかは。

「……努力はしよう」
「おうよ」

言葉を口にすることができると、そう信じてもいいだろうか。





24 (椎名)

暑苦しい、とはまさにこの事を言うのだろう。
 うっすらと額に汗が浮かぶのを感じながら、アーチャーは気を紛らわすかの様に垂れ流されるテレビのニュース番組を眺めやる。
 今日と言う日は比較的穏やかな物で、どうでも良いような芸能人のスキャンダルだの近々行われる選挙の話だのをやたらと仰々しく取り扱っている。
 いや、それこそ本当にどうでも良いのだが。
「うー、あっちー……アーチャー何か冷たい飲み物でもくれねぇ?」
 問題は今人の横に陣取ってだらけている駄犬である。
「冷凍庫に氷は作ってある。勝手に麦茶でも入れて飲めばいいだろう」
 わざとテレビからは目を離さずにそう言い放てば、当然返って来るのはねだるような声。
「いいじゃねぇかーけちー」
「けちと言う程度の事なら自分でやれ」
「ちぇ、あー言えばこー言いやがる」
 むす、と口元を尖らせると、人の肩に圧し掛かってきた。
「……」
 何を言うでもなく無言でするりと肩をすかしてやると、当然のように自重でバランスを崩し、ランサーはぼて、とか良い音を立てて畳に脳天を強打した。
「つぅー……アーチャーてめっ!」
「ふん、自業自得だろう。だいたいな、貴様その格好どうにかならんのか」
 言ってびしぃ、とランサーの胸元を指差すアーチャー。
「格好って。暑いんだから仕方ないだろうが。それとも何か、オレのセミヌードで惚れ直して困るとか?」
「目のやり場に困るの間違いだたわけ! 視覚的には暑苦しさ10割増しだ!」
「だったらとっととくだらねぇ意地張ってないでクーラーつけろってんだこら!」

まぁ良くある夏の一幕、である。





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