web拍手ネタ〜槍弓編〜8


24 (椎名)

暑苦しい、とはまさにこの事を言うのだろう。
 うっすらと額に汗が浮かぶのを感じながら、アーチャーは気を紛らわすかの様に垂れ流されるテレビのニュース番組を眺めやる。
 今日と言う日は比較的穏やかな物で、どうでも良いような芸能人のスキャンダルだの近々行われる選挙の話だのをやたらと仰々しく取り扱っている。
 いや、それこそ本当にどうでも良いのだが。
「うー、あっちー……アーチャー何か冷たい飲み物でもくれねぇ?」
 問題は今人の横に陣取ってだらけている駄犬である。
「冷凍庫に氷は作ってある。勝手に麦茶でも入れて飲めばいいだろう」
 わざとテレビからは目を離さずにそう言い放てば、当然返って来るのはねだるような声。
「いいじゃねぇかーけちー」
「けちと言う程度の事なら自分でやれ」
「ちぇ、あー言えばこー言いやがる」
 むす、と口元を尖らせると、人の肩に圧し掛かってきた。
「……」
 何を言うでもなく無言でするりと肩をすかしてやると、当然のように自重でバランスを崩し、ランサーはぼて、とか良い音を立てて畳に脳天を強打した。
「つぅー……アーチャーてめっ!」
「ふん、自業自得だろう。だいたいな、貴様その格好どうにかならんのか」
 言ってびしぃ、とランサーの胸元を指差すアーチャー。
「格好って。暑いんだから仕方ないだろうが。それとも何か、オレのセミヌードで惚れ直して困るとか?」
「目のやり場に困るの間違いだたわけ! 視覚的には暑苦しさ10割増しだ!」
「だったらとっととくだらねぇ意地張ってないでクーラーつけろってんだこら!」

まぁ良くある夏の一幕、である。





25 (椎名)


「なぁアーチャー、オレが浮気したらよ、お前、どうする?」
「……は?」
「だから浮気だよ浮気。」
「……おかしな昼のメロドラマにでも毒されたのか暇人サーヴァント」
「いやまぁ、たまたまその何だ、めろどらまとか言うの見たらなんとなく気になっちまってな。こう、やっぱシットとかしてくれるのかなーって思ってよ」
「……嫉妬はするだろうが……それだけだろうな」
「それだけ?」
「あぁ、そもそも私は君を束縛する気もなければ権利もない。去ると言うのならば追うようなマネはしないさ」
「……そうか、オレは少しぐらい束縛されるぐらいの方が良いんだがな」
「たわけ。それぐらい私にとっては……あぁもうそれ言わせる気かこの鈍感!」
「わーってるつーの。それにな、お前オレが居ないとダメだろ? だからだからもうぜってー浮気できねぇなーって思ってな。ちょっとした嫌味って事も分からないお前の方が鈍感じゃねぇか」
「なっ! い、言わせておけば……!」
「はいはい可愛いから安心しろー」
「ちょ、人の話を……って頭を撫でるな!」





26 (ペキ)



「いや、問題ない」

問題なくても、こいつはいつもそういうのだ。




縁側でぶらぶらと煙草を吸う。
目の前には七輪で餅を焼いている坊主たち。そこから少し離れた所に皿を用意するアーチャー。
賑やかで温かな、いつも通りの光景だ。
と、もっと場を賑やかにしそうな人物が一人、廊下をパタパタと走ってきた。


「あ、ランサーさん。いらしてたんですねー」
「おう、邪魔してるぜ」
「そんな、いいんですよぅ。厳密には私の家ってわけじゃないんですし、立場はいっしょでしょう?」

にこにこと華やかな顔で笑う虎の姉ちゃんに、俺は軽く手を振る。

「ランサーさんはあちらに行かないんですか?」
「この煙草を吸い終わったらそのつもりだったんだが、もうそろそろ終わりそうだしな。このまま準備が整うまで待っちまおうかと」
「あら、ずるいですねー」

じゃあ私も待っちゃおうかしらー、ふっふっふ、果報は座って待てなのだー……と、オレの横にすとん、と座り込む虎の姉ちゃん。
彼女の視線は、出来上がりを目前に控えたアツアツの餅に釘付け――のように見せかけたいようだが、こっちをちらちらと伺う視線が生憎隠しきれていなかった。
どうやらオレに何か言いたいことがあるようだ。
ちらりと伺う視線に合わせて、顔を向ける。
目が合い、あ、と彼女は驚いたように目を見開いて。そして気恥ずかしそうに笑った。
「何か用か?」
「んー、用ってわけでもないんですけど」
ランサーさんが、何か言いたそうだったから。
「オレが?」
「はい。誰かに何かを」
「……なるほどな」

鋭い。
坊主が「藤ねぇは勘だけで生き抜いてきたようなもんだよ」と称していたが、コレは勘という言葉だけでは片づけられないだろう。
虎の姉ちゃんには活眼があるのだ。特に人の機微に関しての。
教職についているという話だから、ある意味天職だろう。
チ、なんでこんだけのいい女が未婚何だ?
現世の男は見る目がねぇな。

「……まぁ、確かに、誰かに何かを言いたい気分ではあるな」
「でしょう?」

ふふ、と柔らかく、子供っぽさとしたたかさが同居したような顔で笑う。

「私でよかったら、聞かせてもらえませんか? その言いたい誰かって私じゃないんでしょうけれど、本番前の練習ってことで」
「……んじゃ、ちょっくら先生にお話きいてもらっちゃおうかね」
「はい! どうぞどうぞ」

わざわざ正坐に座り直して聞く態勢を整えた虎の姉ちゃんに苦笑しつつ、オレも失礼のないよう煙草の火を止めた。

「とある馬鹿がな、辛い時、オレに頼ろうとしないんだ。オレはそいつとはかなり親しいと思っているし、そいつのことをすごく気に入っているから、困っていたり辛かったりするなら少しでも力になってやりたいと思っているわけだが」
「ふむふむ」
「向こうは困っていたり、辛かったりしても全然そういうそぶりを見せねえんだよ。些細などうでもいいようなことはこっちに押し付けたりするくせに、肝心の助力が必要な時にはそういうそぶりすら見せねえのはどうしたもんかと思ってな」
「ははぁ、なるほどぉ」

それは難しいですねぇ、と虎の姉ちゃん。どこかとぼけたような口調だが、それに続く彼女の言葉は落ち着いた思慮深さが感じ取れた。

「ふふ、やっぱりどこにでもいるんですよね、そういう人って。私の周りにも、結構似たような子がいるんですよ。私の場合は、ずーっと前から面と向かって心 配させろーって言ってきてるんですけど、効果がないんですよね。むしろ、全然なにも困ってない!みたいな態度をとってくるくらいで。そうなのかな?って こっちが逆に説得されちゃう時もあったりして」

変なところで頑固なんですよねぇそういう人って、としみじみという彼女。
全く持って同意見だ。
その辺りのことをオレもアイツに指摘した。
もっと頼れよ、オレはそんなに頼りないか、と。
そうするとヤツは眉間に皺をよせながら、こう続けるだろう。
『別に辛くもないし、助けを必要としてもいない。問題等ないのだから、頼りようがないではないか』
……なんてな。
それが又、いつもと何も変わりのない平静な声でいうものだから、こちらとしても本当に心配いらないのかと一瞬だまされてしまうのだ。
そのせいで後々自己嫌悪したことは、そろそろ片手では足りなくなりそうだった。

「でも、それはしょうがないんですよね。親しい人だから心配かけたくないんでしょうし」
「大切な人だから迷惑をかけたくない、とかな。これはオレの問題だから迷惑はかけられない、って思ってんだろ」
「そうそう! 後は、カッコ悪いところを恥ずかしいから見せたくない、とかもありですよね?」
「あーあーありそうだ。変なところでガキっぽいんだろうな、意地はってるっていうか」

すっかりと意気投合。やれ心配くらいさせろだの、やれポーカーフェイスばっかり上手くなりやがってだの、相手に対する文句は尽きることはない。
と、そろそろ餅焼き組がこちらに気づき、その盛り上がりに訝しげな目線を向けはじめて来たので、少々音量を落とす。

「あー、すっきりした。サンキュな、なんか途中から愚痴っぽくなっちまったが」
「いやいやぁ、なんだか私まですっきりしちゃいました」

結局、皆似た様な悩みになるのかもしれませんね、という虎の姉ちゃんに、そうかもなとあいまいに返事をかえす。
似た様な悩みになるのは、相手が相手だからなのを知っている。
それを誰よりも彼女に知っていて欲しいのだが、決して彼女にだけは言うわけにはいかないことに、少々の罪悪感を感じる。

「あ、そろそろお餅、出来上がりそうですね」
「おお、いい匂いしてきたな」

ちょうど話も切り上げ時だ。
うーんと伸びをする虎の姉ちゃんの隣で、オレも立ち上がり軽く首をまわす。
うむ、有意義なひと時だった。
誰かに話せたこと、その内容に同意や共感を得られたことが、苛立ちに曇りがちだった頭をすっきりとさせてくれた。


「ま、相手がこちらに心配かけまいと何も言わないなら、オレのほうが隠されてもアイツを分かるようになればいいんだよな」

そう、独り言のように呟く。

「あら、あらら」
「ん?」

驚くような声に、もう一度彼女の方を振り返る。
そこには、虎の姉ちゃんがふてくされた様に唇をとがらせていた。

「もう、ずるいなぁ、ランサーさんってば。私が何年もかかってようやくたどり着いた答えなのに、いきなりそこまで達観しちゃうなんて!」

ずるいずるーいー!と駄々をこねるように言いながらオレの隣に並ぶ虎の姉ちゃん、その背中をポン、と叩く。

「悪いな、生きてきた年季が違うってことで」
「そんな、ランサーさんと私、そう違わないじゃないですか?」
「はっはっはー、どうかなー」
「え、え、そんなに違うんですか? ホントに」

問いかける声を軽くかわしながら、オレはアーチャー――いつも通りの微妙な仏頂面だが、多分今日は魔力不足であまり体調がよくない上にオレと「藤ねぇ」の仲の睦まじさに軽く嫉妬しているに違いない――の隣に並ぶべく、再度一歩を踏み出した。
ちっとも弱みを見せない恋人を、これでもかというくらいに甘やかしてやるために。





「あ、ランサーさん?」
「ん?」
「お互いがんばりましょうね! 士郎の進化形みたいなアーチャーさんは相当手ごわそうですけれど、私もがんばりますから」
「……」


……やはり、野生の勘もあるかもしれない。




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