槍士 (イラスト:ペキ 文:椎名)

槍冗談ときどき本気。
 


目が覚めた事を自覚しながら、手探りで時計を探し当てる。
時間は8時半。
二度寝する時間でもないし、うだうだと身体を起こす。
洗面所で顔を洗って多少は目が覚めたものの、まだ寝ぼけた頭で居間へと向かう。
そのまま牛乳でも飲もうと台所へ向かう。

「あ、士郎? 」

台所では自分の主が朝食の支度をしていた。
そういえば今日はガッコウは休みと言っていたか。

「おはようますたー」
あくびを噛み殺しながら牛乳を取ろうと冷蔵庫へと向かう。

「あぁ、おはようランさ…ぁ?」
振り返り様、挨拶を返しながら、士郎はふらりと倒れ…

「っておい!!」
冷蔵庫の取っ手を掛けかけていた手を離し、慌てて士郎の身体後ろからを抱き留める。
支えきれずにそのまま尻餅を付いてしまった。
取りあえず手に握っていたホウチョウとかいうナイフを離させて、顔をのぞき込む。
どうやら気は失っていないようだ。

「あう…なんか…急に気持ちわる゛…うぇ…」
よく見ると酷く顔色が悪かった。
血の気が引いて真っ青だ。

「…ひょっとして貧血か?」
「う…そうかも…」
情けなさそうに口元を抑える様子を見ながら、ふと原因に思い当たった。

…そりゃまぁ…
昨日だいぶ血を貰っちまったし…
貧血にもなるってもんだよな…


聖杯戦争も終了し、既に聖杯の存在しないこの世界では、自分は主の魔力供給なしでは現界できない。
そんな中でちょっと無理をすればすぐに魔力が不足してしまう。
まぁ多少の不足分は飯でも食って眠りさえすればどうってことないのだが。
応急処置として時々士郎から血液を貰っている。

昨日も例によって例のごとく、聖杯戦争の「後処理」に少し魔力を使い過ぎ…
結果として士郎の血を貰うことになり。

「その結果が貧血か…」
ぽそりと呟いて、ため息を一つ付いて。
ひょい、と士郎の身体を抱え上げ座り直すと、そっと膝の上に頭を載せてやる。
「ちょ…とランサー?」
「いいから。じっとしてろ。この方が少しは楽だろ?」
おわ。俗に言う膝枕ってやつか?これ?
などと思いながら、僅かに額に浮いた汗を拭ってやる。
触れた額はひんやりと冷たかった。

しばらくすると幾分顔色も良くなって、どうやら落ち着いたようだ。
…何となくいい機会だから前々からの意見を述べておこうと思い。

「なあ、士郎」
こほん、とわざとらしい咳払いを一つして


「別に毎回血で魔力貰わなくてもいいんだぜ?」


士郎は言われた事の意味をしばらく理解できなかったらしく。
目をぱちくりさせていたりする。


5秒経過。


「ランサー!! お前なっ!!」

おーおー。一気に顔色が良くなった。

思わず笑ってしまった。
こういう所ホントかわいい。

「…う…気持ちワル…」
よっぽど動揺したのか、またグッタリとへたりこんでしまった。

…んー、ちょっと直球過ぎたか?
「悪い。冗談が過ぎたな。とりあえず…気分どうだ?」
「あぁ、大分楽になったよ…おかげさまで…」

おかげさまで、に割と力が入っていた気がするがあえて無視。

…なんだよ…そんなにイヤか?
などと少しへこんだこっちの事など知ったこっちゃないんだろうけど。

「…ランサー…」

ぽそり、と呟くように呼ばれて、俺は少しうとうとと閉じかけていた瞼を開いた。

「その…本当にヤバそうな時とかだったら…考えといてもいいぞ。」
言ってそそくさと俺に背を向き直した。

・・・・・

えーっと。
ごっと。
俺どうしたらいいでしょう。

取りあえず錯乱しかけたのを士郎の頭をくしゃくしゃと撫でてどうにかしてみた。
うん。どうにか落ち着いた?

「そーかそーか。じゃあもう少し無茶しろって事かー?」
知らずニヤニヤと笑いながら士郎の癖のある髪を弄ぶ。

「ばっ…ばか! そういう事じゃないだろ!」

んなこたあ知ってるって。
お前人が無茶して傷付いたりするのすんげー嫌うしな。
それよりもまぁ、別に心底嫌がってるって訳じゃないらしい事が分かっただけでも嬉しい気がしたし。
「分かった分かった。分かったから少し寝ちまえ。起きて具合良くなったら飯作ってくれよ。俺腹減ったわ。」
などと適当に誤魔化して、まぁ今日の所は良しとする事にした。

士郎は納得のいかなそうな…というか気まずそうにうなだれていたけど。
俺がしつこく頭を撫でていたら観念したのか、やがて小さく寝息を立て始めた。


その後、士郎の昼寝…というか朝寝? に付き合って。
目が覚めるのを待って、ようやく朝食の支度に取りかかった。

「なぁ、士郎。」
遅めの朝食は、しかしメニューはいつも通りの純和風な献立だった。
食後の一服を味わいながら、とりあえずさっきのフォローをしなくては。

「さっきの話、俺結構本気だぜ?」

あ、お茶吹き出してるし。

「んんんんんーーー!!!」

思いっきり動揺する主を満足気に観賞しながら、しかし今度は冗談だなどと言ってやらない事にした。





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