日記掲載ネタ〜雑多編〜 7


8 (ペキ) 士郎とアンリと藤ねぇ

久しぶりの晴れ間を迎えた休日。
衛宮士郎は買出しの為、久々に新都へと足を延ばした。
荷物持ちとして駆り出したのが彼と瓜二つの人物だったのは、たまたま暇そうにしていたからで他に深い理由はない。
それに加えて、『ふっふっふー2人だけだと不安だから、わたしもついてったげよう!』と、意気揚々と参戦してきた虎が一匹。
珍しい組み合わせではあったが、そこまで異質というわけでもない。

なんと言うことはない一日の話。


「お、あんな所におもしろそうなのはっけーん! 何かね何かね?」
「よくある出店だろ……って走るなよ!」
「ひひ、あっちの荷物に割れ物入れなくて正解なこりゃ」

新都の駅前はバス乗り場などのロータリーへと至る前に、そこそこの空間がある。
そこの広場とも呼べる空間には、流しの演奏家達やちょっとした出店や屋台があり、それなりの活気が溢れていた。
そのうちの一つ、エンジ色の天幕を張った出店に藤村大河は突貫していった。

「お、ちょっとかわいいじゃない」

陳列されたモノをさっそく目を光らせて物色し始めた姉が変なことをしでかさないように、慌てて弟達も近寄っていく。
ひょいと大河の後ろから覗き込んだ彼らの目に映ったのは、削りだした樹木の色もやわらかな数々の小物だった。
十二支、ふくろう、招き猫。櫛に撥にぽっくり。木で彫られた小さな細工に、色とりどりの紐がくくりつけられている。

「……ストラップ、じゃないよな」
「根付よ。聞いたことあるでしょ? ほら、昔巾着とか印籠とかを止める為のヤツ」
「お、おネェちゃん物知りだねぇ! 一つ買っていってくれよ。 お守りとしても、飾りとしても良いモンだよ」

気風のいい主人の声に、はやくも大河の心は購入へと傾いたらしい。
んーどれにしようかなぁ、などと買うことを前提にきょろきょろと並べられたものを見渡している。
しかし、ソレを見守る少年たちの目は、少し冷ややかであった。

「確かにいい細工だとはおもう……けど」
「イヤそれにしたって高いだろ、これは」

口にしがたい事をずばりと言ってのける黒い少年。
そう、確かに細工としては見事であるが、一つの値段が平均1500円前後……というのは先ほどまで二枚一組特価800円のTシャツを真剣に選んでいた身としては、おいそれと手出しが出来る値段ではなかった。


「馬鹿、根付っていうのはもっと高いものなのよ、普通。檜だったら5センチくらいで3000円とかザラなんだからー」
「おうともよ、うちはその点、若い子向けだから安くしてるんだぜ?」

妙に博識な大河の言に、そういうものかと納得する士郎と、それでも高い事には変わらないだろ、と今ひとつといった感じのアヴェンジャー。
どちらにせよ、今更高いから止めよう、などと言えるような雰囲気ではない為、2人は黙って姉に習い根付を見分する。
そして一同の目は、出店の奥、一際大きなスペースを取っている、壁に陳列された商品へと自然に行き当たった。

壁一面に見渡す限り掛けられているのは、木で出来た小さな札。表面にはひらがなで何事か文字が刻印されてあり、その数は1000を超えるだろうか。

「……名前札?」
「今、人気なんだよ、それ。どうだい? ひとつ」

別段、特に目新しい所もない物だ。
飾り気のない、しかしどこか味のある印象を受ける木目の映えた木製の板に、様々な名前が彫ってある。みやげ物としてはよくある種類の一つであろう。
たしかに根付としては珍しく、最近人気になっているのかもしれないが。

「あー、やっぱりわたしの名前なーい!」
「そりゃ、タイガーなんて名前はねぇよな」
「タイガーっていうなー!!」

がおお、と吼える姉とソレをからかいつつも適当に逃げる兄弟のような少年を横目で見やりつつ、なんとなく士郎も自分の名前を目で探してしまう。
あった。
別段珍しい名前ではないから、あるのは当然と言えば当然なのだが、しかし、見つけることが出来ると少しだけ嬉しく思うのだから不思議だった。
そして、更に横へと目を滑らせ……

「あ、あった」
「へ? 何々?」

復活してきた大河に、士郎はほら、とその札を掲げてみせる。

「あ、ホントだ。ほらほら、見て?」
「ぁ? なんだって……」

手を半ば無理矢理に引かれ、黒い少年もその札を見る。
差し出された、小さな木札には、三文字の名前。


『あんり』


ね?と嬉しそうに反応をうかがう大河と士郎に、アヴェンジャーはめまいを覚えた。

「……っていうか、それ、女の名前の所じゃねぇか!」
「男も女も別に変わらないだろ。色や字体が違うわけでもないんだしさ」
「そうそう。
 ――おじさーん! これとこれ、二つねー?」
「はいよ!」
「って何買ってんだよそこの虎!?」

さっさと弟2人の分の札を取り、店主に差し出す大河。他にもいくつかの木彫り細工の可愛らしい根付を手渡していく。

「アンタ何勝手にそんなもん……!」
「ああ、これ? 大丈夫わたしのおごりよー。おねえちゃんだって伊達に社会人やってないんだからー」
「藤ねぇが何かおごってくれるって滅多にないんだから、素直に貰っといたほうがいいと思うぞ?」

諭すような口調ながらも、どこか楽しそうに告げる士郎に、くそったれ、付いてくるんじゃなかったとアヴェンジャーは小さく毒づく。

「はい、アンリ」

そして、差し出されるソレを。
しぶしぶと受け取った新しい弟を満足げに見た姉は、家に帰る間中とても楽しげだった。



「わたしの名前のも作ってもらってるから、届いたらお揃いでつけようね!」
「げっ」



――そうして、彼らが持ち歩く家の鍵には、現在木製の名前札がぶら下がっている。






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