日記掲載ネタ〜雑多編〜 8


9 (イラスト:ペキ 文:椎名) 槍弓士

 立秋を過ぎ、暦の上には既に秋。
 とは言えまだまだ残暑厳しい8月下旬。
「何だそれ?」
 ふらふらと何処へか出掛けて行ったランサーが持ち帰った物に、士郎は思わず小首を傾げた。
 ランサーが手にしているのはビニール袋。
 僅かに付いた水滴から、中身が冷たいものなのだろうという事は伺い知れたが。
「ん? これか?」
 ふふん、と鼻を鳴らして得意げにランサーは中身を漁り。
 取り出されたのは――
「アイスキャンデー?」
「おう。安いし美味いしヒンヤリするし最高だろ」
 見ればビニール袋は近所のスーパーの物。
 安売りでもしていたのだろう。
 ほい、とランサーは士郎に、キャンデーを一本差し出した。
「お、おう。サンキュ」
 何の疑いも持たずに、士郎はそれを受け取り。
「うわ。何本買って来てんだよお前ー!」
 ビニール袋の中に残るアイスキャンデー、その数役10本。
「いいだろー別に。安かったんだし」
 まぁいいけど、と士郎はキャンデーの封を切る。
「アーチャー、お前も食うか?」
 言って新聞に目を通していたアーチャーに、ランサーはアイスキャンデーを一本差し出した。

 しかし。
 アーチャーの鷹の目は見逃さなかった。
 ランサーの買い込んできたアイスキャンデーは全部。

 ミルク味っぽい白濁した色であった事を。

 鷹の目、関係ないけど。

「遠慮する」
「えー、美味いぞーひんやり冷たいぞー」
「遠慮、する」

 しばし良い笑顔で火花を散らし睨み会う二人の攻防には気付かず、士郎はアイスキャンデーを口元へ運ぶ。
 知らず、ごくりと息を飲む二人。
 ゆっくりと。
 士郎はアイスキャンデーを――
 かじった。

「……あ、かじるんだ、やっぱ」
「ふぇ?」
 ぽつりと漏らされたランサーの呟き。
 それがちゃんと聞き取れずに聞き返した士郎に、ランサーは慌てて目を逸らす。
「いや、なんでもねぇよ。上手いかそれ」
「ん?あぁ、美味しいけど」
 そうかそうかと一人うなずくランサー。
 その様子に、アーチャーは肩を竦めて皮肉気に笑った。
「期待が外れたようで残念だったな。気付かぬ衛宮士郎も救いがたいと言えるがな。まぁ下らん企てはしない事だ」
 何を言われたのか気付かずに、士郎はきょとんとしてアーチャーとランサーを見比べる。
「うるせー。ちょっとぐらい期待したっていいだろー奢ってやったんだしー」
 ランサーは不満気に口を尖らせ、自らもアイスキャンデーを一本口に入れた。
 アーチャーとランサーのやり取りと、自分の今持っている物と。
 士郎はようやく自分が何を期待されていたのか気付き、顔を真っ赤にして咽帰った。

「食べ物に失礼だろばかー!」
 
 口の中は冷えたけど体感温度は一気に3度上昇した士郎であった。





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