日記掲載ネタ〜雑多編〜 10


11 (イラスト:ペキ 文:椎名) アンリと藤ねぇ 2006年ハロウィンネタ

 ジャック・オ・ランタン。
 言うまでもなく、ハロウィンのシンボルであるカボチャの提灯である。
 元々は、生前好き勝手に生きたジャックとかいうロクデナシが、天に召されても地獄に行く事すらできず闇を彷徨い続ける罰を受け、それを哀れに思った悪魔が地獄の炎を運んでやったという話が元になっているのだという。
 全くもって酷い話である。
 なにせ極悪人でも多少なりとも救いがあるというのだから。

「はぁ。賑やかで良いねぇ」
 人が出払い誰もいない衛宮邸の居間。
 アンリは何をするでもなく、座布団を枕にちゃぶ台に突っ伏していた。
「こういうイベント大事にするよなーこの街」
 耳に届くのは、近所の通りから聞こえてくるハロウィンの決まり文句。
 子供達が練り歩く気配が、衛宮邸から次第に遠ざかって行く。
 無論、この家の主はどこぞの酒屋にこのパレードのメインイベントとして借り出されて留守のため、居留守を使ったばかりである。
 暇を持て余していると、何の前触れもなく突然居間の襖が開かれた。

「あれー?士郎ってばオトコの所じゃなかったの?」

 突然の事で、一瞬何が何だか分らなくなるアンリ。
 実は何かと面倒なので彼女――藤村大河には姿を隠している身であったため、そういえば体面するのは初めてであった。
「あ、あぁ、今行く所だ」
 恐るべしタイガー。
 サーヴァント(一応)をして気配一つ気付かれないとは。
 冷や汗たらたらでぎこちない返答に、藤姉ぇはにっこりと笑って近寄ってきた。
「ま、いっか。丁度良かったし。はい、これ士郎の分」
 言って渡されたのは、可愛らしいのに何処か禍々しいカボチャのマスコットの着いたリボンで飾られた小さな袋。
 どこか素人じみたラッピングが、帰って可愛らしい。
「えーと、これ……」
「んっふっふー。お姉ぇちゃん今年はがんばっちゃったんだからー!」
 ……何故か背筋を冷たい物が走った気がしたけど気のせいだろう。
「でも驚いたー。士郎もそんなカッコしてハロウィン満喫?」
 ぎくり、とアンリは一瞬息を飲む。
 確かに、今の格好は傍から見ればボディペイントだらけのどこのお化けさんですかといった出で立ちである。
 あぁ、今日がハロウィンで良かった。
 ついでにタイガーがタイガーで本当に良かったとアンリは何にともなく感謝する。
「じゃあ、私またちょっと出掛けるけど、オトコに宜しく言って早く返してもらうのよー?晩御飯期待しちゃうからー主にデザート」
 勝手に言う事だけ言ってひらひらと手を振り、藤姉ぇは再び出掛けて行った。
 残されたアンリは、手の中の物をまじまじと見つめ、くつくつと笑い出した。
 まるで呆けたアンリを嘲笑っているかのような、間抜けなカボチャのマスコット。
「ジャック・オ・ランタン、か」

 全くもって酷い話である。
 永遠に闇を彷徨うロクデナシは、現在に至るまで人々を楽しませるという罰を受け続けているのだから。







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