雑多SS 
13 (椎名) 金士   


雪の日のフラグ


 外は久方ぶりの雪。
 昨夜から降り始めた初雪は、今朝には冬木の町をその名に相応しく白い世界へと変えていた。
 こんな日は雪ではしゃぐ家の連中を見守りながら、のんびりとコタツでお茶でも飲んでいたい物なのだが、生憎と切らしていた調味料やらなにやら買い物の必要には迫られる訳で。
 まぁこんな雪の中、とぼとぼ傘を差しながらの買い物というのも悪くはないかと、商店街まで必要最低限の買い物を済ませた帰り道。
 家の前の坂道は人通りも少なく、殆ど踏み荒らされていない道は一面の白だった。
「あれ……?」
 その痛くなる程の白い視界の中、ぽつりと目に付いたもぞもぞと蠢く茶色い物体。
……いや、物体、というのは失礼だっただろうか。
 一匹の猫が、家屋の迫り出した屋根の下でじっと降り積もる雪を凌いでいた。
「野良、かな。首輪してないけど」
 今時首輪をしていない飼い猫というのも珍しくはないのだろうが、まぁ毛並みが若干誇りっぽく汚れている所を見るとおそらくは野良猫なのだろう。
 いつもなら通り過ぎるだけなのだったが、この日はちょっとした気まぐれが働いてしまったのだ。
「ふむ」
 そろりそろりと標的へと近づく。
 普通の野良猫なら、流石に近づこうとすれば警戒して逃げ出すのだろうが、今この猫は雪を凌げる貴重なこの場所を断固死守する方針なのか、一向に動こうとしない。
……いや、違った。
「随分……人に慣れてるな、お前」
 小首を傾げつつこちらを見上げる猫は、どうやら単純に人をあまり怖がっていないようだった。
 恐る恐る頭を撫でてやると、冷えた体に人肌の温かさが心地よいのか、猫は目を細めて尻尾を揺らした。
 その様子に、正直調子に乗ったというのはあったのだが。
「家、来るか?雨宿り……じゃなくて、雪宿りぐらいならさせてやれるぞ?」
 そう行って肩に下げていた買い物バッグを担ぎ直すと、俺は猫をそっと抱き上げた。
 流石に驚いたのか、じたばたともがくターゲット。
「わ、こら暴れるなって。入れてやらんぞこら」
 言って頭をぐりぐりと撫でてやると、此方の誠意が伝わったのか猫は大人しくしてくれた。


 家に戻って取りあえず猫をタオルで拭いてやり、暖めたミルクをご馳走してやると、安心したのか猫は俺にぴったりと寄り添ったまま丸くなってしまった。
 このまま居付かれたらどうしようか、などと今更ながら考えつつ、コタツで温まりながらお茶をすする。
 いや、別に猫一匹ぐらい、この広い家で飼う事など別段問題はないのだが。
 悩む問題は別にあった。
「で、どうするというのだその不埒物」
 じとり、と猫に視線を向けつつ言い放つ王様が一人。
 そう、この王様、俺が猫を連れ帰ってからこっちずっとこんな感じで猫に敵対心を剥き出しにしているのだ。
「うーん、どうするって言われてもなぁ、一応雪が止んだら本人に任せてみようと思うけど」
「甘い……甘いぞ雑種!」
 叫んでやおら立ち上がり、びしぃ! と寝息を立てる猫を指差して。
「貴様は猫の特性と言うものを全く以って理解しておらん! 猫という奴はな、とことんまでしたたかで気まぐれで図々しい生き物なのだぞ!? 一度甘やかしてしまったが最後骨の髄まで貪り尽くすまで宿主を利用するに決まっておろう!」
 ふーと唸り声さえ上げてがーとまくし立てるギルガメッシュ。
 まったく以ってその通り。
 さすがよく分かっていらっしゃる。
「ギルガメッシュ、ひょっとしてお前……猫になんかヤキモチ焼いてるのか?」
「な!?」
 指差す先を猫から俺へと移動させ、耳まで見る間に朱に染める英雄王。
「き、貴様! 我を愚弄するか雑種! 我はただそこな野良猫が我が物顔で我の所有物に懐いて居るのが気に入らぬだけだ! 大体雑種も雑種だぞ。そんな野良猫に奉仕している間があるのなら我に茶菓子の一つも捧げるのが道理というものであろうが!」
「あ、そうか、もうオヤツの時間か、悪ぃ、気付かなくってすまなかったな、腹減ってたんだよなギルガメッシュ」
「うむ、まぁ分かれば……ってそういう問題ではないわたわけぇぇぇぇ!」

 かくして。
 この日よりしばらく、衛宮家では英雄王と猫さんによる壮絶なんだか低レベルなんだか良く分からないバトルが繰り広げられたのだと言う。
 もっとも、このバトルが英雄王による一方的で不毛な物でしかない事は、言うまでもないのであった。



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