雑多SS 
14 (椎名) 金士 あけましておめでとうございます。  



黄金率は一年を占うか



 今年も一年が始まり、元日の空はまるで晴れた秋の日の様な澄んだ空で、幸先も良く気持ちの良い日となった。
 だがしかし、今現在自分の……いや、自分達の眼前にあるのはただ只管人、人、人の群である。
「うー、やっぱりすごい人だなぁ……何時でも来れるんだしわざわざ今日来なくても良かったのに……」
 いいつつ俺の内心は隣の連れが暴走しないか気が気ではないのだが。
「たわけ、それでも敢て元日に来る事に意味があるのではないのか?」
 どうやら俺の不安とは裏腹に、連れ――ギルガメッシュはこの状態をそんなに不満には思っていない様だ。
「まぁそりゃそうだけど。でも意外だな、お前だったらこんな人ごみ絶対嫌がると思ったんだけど」

 年が空け、新年の挨拶と御節料理の朝食が済んだ今朝の事。
 テレビから垂れ流される正月特番を眺めやり、コタツでのんびりしていたのだが、そんな元日の朝の和やかさをぶち破り、飛び込んで来たトラブルメーカー。
「はっはっはー喜べ雑種共! この我自ら新たなる年を祝ってやろうではないか!」
 居間へ入ってくるなりそうのたまった王様を、一同は一様に生温い眼差しで出迎えた。
「あー、はいはい、明けましておめでとうギルガメッシュ」
「明けましておめでとうございます。今年は大人しくしてくれると嬉しいのですが」
「もう、姉さんもセイバーさんも……明けましておめでとうございます。今年はあまり調子に乗って食べられないように気をつけて下さいね」
「桜、あまり冗談になっていません。とりあえず明けましておめでとうございます。」
「うわー……」
 日頃の行いから見れば当然とも言える歓迎振りに、少しだけギルガメッシュが哀れに思えて俺は目をしかめた。
「ふん、まぁよい。それよりも雑種。出かけるぞ。仕度せい」
「は、はい!?」
「何だ、今日は元日であろう、初詣に決まっておろうが」
「え、いや、俺たちは夜中の内に行って来ちゃったし……」
「ふん、ならば都合良い。勝手は分かっておるのであろう。案内せい」
「いってらっしゃい、昼までには戻ってきてよー」
「お気をつけて。お土産よろしくお願いします」
「あ、先輩午後はみんなで初詣行くの忘れないで下さいねー」
「なんでさー!」

 まぁそんなこんなで否応なしに因縁深い桐生寺まで連れて来られたのだが。
 夜中の内もそうだったのだが、流石に元日ともなるとこの辺り唯一の寺であるここはどこから沸いて出たのかと問い詰めたくなるような人だかりだった。
 そもそもが大衆に紛れるのを良しとしない王様の事、増してやこんなに参拝客が多く、大人しく並んで順番を待つなんて行為を甘んじて受け入れるなどと思えなかったのだが。
「ふん、本来ならばたかが賽銭を投げ入れるのに我を並ばせるなど笑止千万と言うべきなのだがな。今日は元日の上に神である我が直々に赴いてやろうと言うのだ。寛容にもなろうと言うものよ」
「そういうモンですか……」
 まぁこの王様はどこまでも気まぐれなので、そうと言えばそうとしか言えないのではあるが。
 取り合えず現状は妥協だか元々そこまで気にする程の事でもないのかは分からないが問題はないという事らしい。
 一先ずイラっと来てうっかり参拝客の上に宝具の雨を降らせるような事はなさそうなので安心して、俺は首元のマフラーを掛け直す。
 ゆるゆると列も進み行き、無事に何事もなく本堂の前まで辿り着いく。
 少し前に財布から取り出してあった五円玉を投げ込み手を合わせる。
 と。
「待ったギル」
 同じく賽銭を投げ込もうとしていたギルガメッシュを慌てて制し、投げ込まれようとしていた物を奪い取る。
「なぁに札束入れようとしてんだよっ!」
「む、何だ。どうせ願を懸けるならその金額も多いに越した事はないであろうが」
「額の問題じゃないからっ!」
 とりあえず俺は自分の財布から5円玉を取り出しギルに手渡した。
「いいか、お賽銭って大抵ご縁がありますようにって意味を込めて5円玉を入れるんだ」
「ふむ、そういうものなのか?」
「そういう物なの。あんまり大金投げ込んだってお寺の人が喜ぶだけだろ」
「ふむ、まぁ、雑種がそう言うのなら言う通りにしてやらんでもない」
 言うとギルガメッシュは若干腑に落ちない所はある様なのだが、取り合えず俺の渡した5円玉を賽銭箱に投げ入れ手を合わせた。
「これで良いのだな?」
「ん、あぁ、そうだな」
「ふむ、では行くぞ」
 言ってすたすたと列を抜けて歩を進めるギルガメッシュの表情は実に満足気であったので、まぁ一応良かったという事にしておこう。
 と、ふとある事に思い当たり、深く考えもせずに口にしてしまった。
「なぁ、ひょっとしてギル、来て見たかったのか?初詣」
 う、と先を行く意外と小さな背中からはやり小さな呻き声が聞えたのは士郎の気のせいだろうか。
「た、たわけ!神たる我が偶像の神仏を崇めるなどという馬鹿げた行為が出来るか!」
「あ、気のせいじゃなかった」
 思わずポツリと呟いたが、混乱と周囲の喧騒でどうやら英霊の身を以ってしても聞えなかったようである。
「そうか、初めてなんだ、でも何だって今年は半ば無理矢理俺を引っ張って来たんだ?」
「む、それは……た、たまには雑種共の風習に従って下々を知るのも王たる勤めという物であろう」
 あー、要するに行って見たかったのか、と妙に納得すると狼狽する王様も微笑ましく思えてくるから不思議だ。
「ふん……大体こんな……が居なければ誰が好き好んで……」
「……はい?」
 ポツリと呟かれた言葉は、周囲の喧騒もあって生身である俺の耳には良く聞き取れなかった。
「ギル、何か言」
「何でもない。それよりも、御籤とやらを引くのだろう? さっさと歩かんか」
「ん、あぁ、そうだな、せっかくだし」
 何やらさらっとはぐらかされた気がするが、とりあえずすたすたと先を行くギルガメッシュを人の波を縫って追いかけるので必死だったのでそれ以上は聞こうとはしなかった。
「雑種、それが済んだらとっとと帰って雑煮とやらを作るがいい」
「はいはい。餅はさすがに切り餅で勘弁してくれよ」
 さすがに米を蒸して餅つきをして、なんてやっていたら夜までかかてしまう。
 直ぐに食べるのなら切り餅を使うしかないだろう。
「ふむ、まぁ其れぐらいは妥協しよう」
 ふふん、と少し楽しそうに先を行く王様の後を、周囲とぶつからないように追いかけた。

 余談ではあるが、後に引いた御神籤なのだが、ギルガメッシュが当然の様に大吉を引き当てた事をここに記しておく。




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