web拍手ネタ〜雑多編〜5
※カップリングが本気で雑多なのでご注意下さい


14 (ペキ) 志貴と士郎 2007バレンタイン

最初に渡されたのは、確かカレー味のチョコレートだったか。
アレは実に衝撃的だった。何が衝撃って、カレールーってチョコレートの一種だったんだー、という衝撃……というよりもむしろドッキリか詐欺みたいだった。
だが渡した当の本人は『チョコレートなんだよ、それでも』とブチブチ言っていたから、まぁそうなんだろう。
とにかくその原材料に力いっぱいガラムマサラとかターメリックとか書いてありそうなチョコレートを、既に容量の半分まで食べていたあたりについては、素直に尊敬に値すると思う。

次に渡されたのは、見た目は普通だったけど、中身がぐにゃっとしていてすっぱかった。
あれも衝撃的だった。甘酸っぱい、とかじゃない。むしろしょっぱ辛い? ほのかにシソ風味?
『ッてコレ梅干ジャン!?』
『梅干だよ。紛うことなく』
アイツはそう言いつつどこか達観したような、それでいて今にも死にそうな目で生暖かくこちらを見ていた。梅干風味のチョコレートはありそうなものだけど、梅干入りのチョコレートはヤバイんだなぁという事を学んだ。そして自分なりに梅チョコを作ってみようと心に誓う。作った人には悪いが、あれはチョコレートに対する冒涜だ。

そのまた次に渡されたチョコレートは衝撃というより、劇的だった。何しろ、食べた直後の記憶がない。なんというか、かろうじて記憶の片隅を拾い上げるなら、カレイドなステッキの声を聞いたような聞かないような。それいて蛍光ピンクと蛍光ミドリなんかで構成された、ドぎつい夢を見たような気がする。
『ハッ!? お、俺、今何を……』
『あ、生きてる? 流石、丈夫に出来てるんだ。俺なんか四時間は気絶してたのに』
あの時は真剣に殴ろうかと思った。
だけど、それらのチョコレートをこれから全部平らげなきゃならないソイツの未来を思うと、怒りは段々と霧散してしまう。

逆に俺が渡した一連のチョコレート郡を食べていたソイツは、チョコを口に入れて『美味い』と呟くたびに殺気を募らせていた。
『お前いいよなぁ……普通に全部食べられるし。むしろ美味いし』
『イヤ、普通食べられるだろ』
『普通じゃないんだよ、分るだろ』
『……悪かった』

一通り……それこそタイガーの作った物までぺロリと平らげて(もしかしなくても、深刻にソイツの舌は麻痺していたのかもしれない)、ご馳走様、と手を合わせた。
こちらこそご馳走様、と俺も返す。
ちょっとした好奇心での頂き物の交換会だったが、代償は大きかったと言わざるをえない。俺ばっかりがダメージを食らっていて、実に割りが合わない等価交換だった。
……けれど、お互いの今いる世界が垣間見えた気がする。理解するには至らないけれど、その空気の片鱗を味わったような感覚。それはとても貴重な事だったと思う。



腰掛けていた芝生の上からズボンの裾をはたきつつ立ち上がり、ひとつ大きく伸びをした後。
ソイツはこっちを見下ろしながら、

『罰当たり』

と、言った。月明かりを反射した眼鏡の性で、その表情は良く分からなかったが、多分好意的なものではなかっただろう。

『コレだけの【日常】を、お前は置いていくんだな』

その口調も責めたり咎めたりするようなものではなかったが、心中もその口調どおりではなかっただろう。

『……ああ』
『いついくんだ?』
『春。あと二ヶ月かな。ほとんど準備も終わってる』

ソイツはため息を一つ付き、「ホント、罰当たり……」ともう一度呟く。
その言葉に込められた意味を、俺はもう知っている。
ソイツは『日常』の大切を知っている。それが壊れやすい事も、一度手放せば二度と手に入らないかもしれない事も。
そして何よりもそれを大事に思っている。自分の力で壊してしまわないように、大切に大切にしていた。

だけれど俺は『日常』を捨てて、理想を追うと決めていた。

『要するに、隣の芝は青いんだよな』

言いつつ、笑うソイツ。
違いない、と俺も笑った。





隣の芝は青い。
俺達のほしいものは、とても対極だ。だからこそ、お互いがお互いのほしいモノを持っている。

アイツは、最初から『英雄』だった。死を見る目を持つ、27祖のうち2つを屠った男。真祖の姫君の騎士。その名は世界に轟き、いずれは英霊へと至るだろう。
……けれど、アイツがほしいのは、全てを守れるだけの強い力ではなく、ほんの小さな日常とそれを維持する時間で。
そして俺はそんな、アイツが何よりも大事に思っている日常を持ちながら、それを捨てて『全てを守れる力』を欲している。そんな英雄に、正義の味方になりたいと願っている。


アイツが欲しいのは小さな幸せ――【日常】。
俺がほしいのは皆の幸せ――【理想】。

だから、俺はアイツがうらやましいし、アイツも俺をうらやましい。
ないものねだりもいいところだ。だから互いにとても腹立つ。

けれど。



――どこか、俺達はそれでいいのだと、確信している。


いつまでも意見は平行線で、まるで理解できない生き方。
お互いに肯定も否定もせず、干渉も歩みよりも必要ない存在。
理解は出来ないけれど、そんな生き方をお互いに認めている。




これから幾度となく俺達は会うだろう。
戦場で、日常で、敵として、共犯として。
そして、そうやって何度出会っても、俺たちの生き方は変わる事がない。


この世界にただ一人、敵でも味方でもない、どうしようもなく相性の悪い相手。

そんな、いつまでも変わらない相手を、幾度も腹立たしく思い。




『じゃ、またな』
『……ああ、また』



――幾度出会っても、その存在がいつまでも変わらない事に、安堵するのだ。




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