槍弓    BY椎名


       いつもと変わらぬ午後でした。 7



※今更過ぎるアテンション。
この話はfate本編をベースにしてはいますが、時系列等に多少の矛盾が生じております。
仕様ですのでご了承下さい。




 その次にランサーがアーチャーと会った時、アーチャーはマスターである少女の元を離れていた。
 事情を聞けば、やむを得ずアーチャーはキャスターの手に落ちたという事だった。
 現場に立ち会っていた少年の話によれば、半ば裏切る様な形であった様だが、当の少女の方は一切彼女に背を向けた弓兵を責めることほしなかった。
 ただ一言、自分の力不足が招いた結果だとだけ呟いて、でも戻ってきたら一度ガントぶちかます、と苦々しく笑って見せたのだ。
 そんな少女のいじらしさを見せられて、マスターの命などなくとも協力してやりたいと思わなければ男が廃るという物で。
 
 決戦の場所は、あの教会。
 話に聞いていた通り、キャスターの手駒として立ちはだかったアーチャーと真っ向から対峙する形となった。
 あぁ、そういえばこんな風に敵として向かい合うのは、最初に会った時以来だろうか。
 セイバー奪還の為、アーチャーの横をすり抜けて走って行く若い二人の背中を見送り、その姿が教会の中へ消えて行ったのを確認すると、ランサーは呼び出していた魔槍をぽんぽん、と気だるそうに肩へとやった。
「まったく……面倒なコトになっちまったな」
「何がだ、ランサー」
 答える声は、淡々としていてそこに感情は伺えない。
「時期に戦う事になるとは覚悟してたがよ。こんな形になるとは思わなかったぜ。ドジ踏みやがってよ」
「言ってくれるな。こうでもしなければ凛諸共今頃この世にはおるまい」
「違げぇよ。こっちの話だ、忘れてくれや」
 昨夜、アーチャー達の元を去った後、二人は教会へと乗り込み、その結果として少女はアーチャーを奪われた。
 だがそれを、自分があの後しばらく監視を続けていればあるいは、などとランサーは思わない。
「もしも」の話は、昔から性に合わないのだ。
 故に彼が呪うのは不運であり、そこに後悔はない。
 というか彼の場合、不運が多すぎていちいち後悔などしていられなかったというのもあるのかもしれないが。
 ランサーの言葉をアーチャーがどう受け取ったかはさておき、
「で、どうするよ、オレとしちゃお前と戦わずにすむのなら今はやりあいたくねぇんだが」
「私としては、君を通す訳にはいかないな。昨日見逃してもらっておいて不義理は承知の上だがね」
「まぁ、そうだろうな。気にすんなよ、せめて全力で来てくれりゃ十分だ」
 諦めと、反面希望が叶うという期待と。
 複雑な気分でランサーが肩に掛けていた魔槍を構え、それに応じるようにアーチャーが双剣をその手に呼び出した、その時。

「あぁぁぁぁもう! 何なのよアナタ達!さっきから焦れったくてイライラするったら無いわね!」

 いつの間に来ていたのやら、二人が教会の方へと向けたそこには、中で対峙している筈のキャスターと――ぐったりした士郎の首根っこを引っ掴んだ凛が仲良く仁王立ちで二人を見据えていたのだった。
 さらにその背後には、キャスターのマスターと思しき背広の男。
 確か名前は葛木とか言ったか。
 まぁそれはどうでも良くて。
「キャ、キャスター……?」
「よ、よお、嬢ちゃんまでどうしたんだ?」
 何か背筋に嫌な物を感じ、二人とも踏み出しかけた足を止めて固まらざるを得なかった。
「どうしたもこうしたもないわ……そこの弓兵、さっきから槍兵スキスキオーラ出まくりでもううざったいのよ!」
「いや今どきスキスキオーラってアンタな」
「うるっさいわね! サーヴァント契約繋いだ時からとんでもない男だと思ってたけれどっ! もー我慢できないわ!」
「というわけで。私も何かムカ付いてキャスターと利害が一致したんで一時休戦してアンタ達をぶん殴りにきたってワケ。何か文句もしくは言い訳、あるかしら?」
 ずん、ずん、とやたら重たい足音と共に、近づいてくる二人の圧倒的なプレッシャーは、大の英霊二人を見事に硬直させて余りある程に凄まじく。


 教訓。
 魔女を怒らせると、やっぱりおっかない。


 そして約一時間後。
 衛宮邸の食卓に並ぶは古き良き日本の朝の食卓で。
「やだ……おいしいじゃないの……ちょっと坊や、このサトイモの煮付け後で作り方教えなさいよ」
「え? あ、はい……?」
「キャスター……その、この服はいつまで着ていれば良いのでしょう? 動きづらい上になんだか恥ずかしい……」
「当然私が良いって言うまでよ」
「あら、似合っているわよセイバー、キャスターもそのセンスは認めてあげても良いわねー」
「今の発言は褒め言葉としておいてあげます。今は休戦中なだけで貴女のこれまでの罵詈雑言は一字一句覚えてるんですからね。あまり馴れ馴れしくしない事よ」
「そっちこそ。現代に隠れ住む魔女の底力、侮らないでおくことね。まぁ相手の陣地に堂々と乗り込んで来た度胸は褒めてあげる」
「そのセリフはそっくりそのままお返ししておくわ。あの状況で教会に乗り込んできた貴女も大した物よ」
「ふふふふふふふ」
「ほほほほほほ」
「いや、ここ俺の家なんだけどな……」
 葛木の方は葛木の方で、黙々と食事を進めているし。
 そんな束の間の……一応は平和? な食卓の風景を、アーチャー、そしてランサーは黙って眺めていた。
 結局あの後、二人はきつい一発をお見舞いされた後、総員拍子抜けしたらしく、とにかく一時休戦、食事でも取って落ち着こうという事と相成った。
 言うまでもないが、セイバーは完全にキャスターとのマスター契約を終えてしまっていた。
 今はキャスターに敵意が無い事もあって落ち着いているが、キャスターの趣味らしい純白の愛らしいドレス姿に身を包んでいるその姿に、あの勇ましい鎧姿の面影は見られない。
 葛木に至ってはキャスターがそれで良いなら、とあっさり付いてきた。
 本当に奥の読めない不気味な男である。
 アーチャーは今の所キャスターに従うしかなく、ランサーは引き続き凛を死なせるなというマスター命令を盾に着いて行く事に。
 条件として、キャスターに奇襲は仕掛けないというギアスを受け取ったが。
 まぁもとより奇襲なんて趣味ではない真っ向勝負を好むランサーに取ってはどうという事もない条件だったので。

 かくして、衛宮邸では以上のメンバーによるかつてない程に不穏な空気が流れる朝食の時を迎えているのだった。
「そういえばキャスター、せっかく占拠した教会、離れて良かったのか?」
 心持ぐったりした感の否めない様子で、士郎はセイバー3杯目のご飯のお代わり(食欲は健在のようです)をよそいながらキャスターに問いを投げた。
「問題ないわよ。言ってしまうと、あそこに聖杯は無かったしもう必要ないわ。てっきり教会で管理している物と思っていたのだけど……あのエセ神父、とんだ食わせ者だったわね」
 ぎり、と歯噛みし苦々しい表情を浮かべるキャスター。
 おそらくセイバーが落ち着いたら、用の済んだ教会は手放して、自分の神殿である柳洞寺へと戻り守りを固めるつもりだったのだろう。
「ならいいんだけど……それはそうと、この休戦っていつまでなんだ? あんたに取っちゃもう何のメリットも意味もない休戦だ。サーヴァントを3人も手にした以上、俺達をこの場で叩き潰すなんて造作もない事だろう?」
 士郎の言葉に、この場のやや緩んでいた空気が一変した。
 言った士郎までもが、はっとしたように息を飲んでキャスターの言葉を待った。
 魔女は不適にくす、と笑みを浮かべ、飲んでいた湯飲みをことりと置いた。
「そうね……今となってはそこのランサー諸共この場であなた達を始末するのは難しい事ではないわ。なにせこちらはサーヴァントが3体。それも3騎士の内の二人。ランサー一人に坊やとお嬢さんではどう転んでも勝ち目は無いでしょうね」
「……」
 凜は何も言わずに、黙ったままのセイバーに目をやった。
 その悔しそうに沈黙を守る表情が、彼女がキャスターに逆らえない存在となったことを表していた。
「でもね、考えても見て頂戴。私が今回少々大胆な攻めに回ったのは、教会に聖杯があると思っていたからよ。聖杯の性質の解析次第では、何もサーヴァント7体を倒さなくてもあるいは、と思ってね。それに聖杯さえ私が手に入れてしまえば、あなたたちも私の神殿に乗り込んでくるしかなくなるでしょう?」
 なるほど、さすがは知略のキャスター。
 本当にそこまで深く考えていたのかどうかは本人のみぞ知る事ではあるが。
「でも教会に聖杯はなかった。それに、なにやらキナ臭い正体不明の8人目のサーヴァントまで現れた様だし、こうなった以上戦略の建て直しを図る間、戦わずとも済む相手は一人でも多いに越した事はないわ。貴女達だって、いつまた新しいサーヴァントを呼び出して再び参戦するか知れた物じゃないものね。特にそちらのお嬢さん、まだまだ闘志が漲っているもの」
 キャスターは不適に口元を吊り上げて、話をじっと聞いていた凛へと視線を向けた。
「当然よ。それにね、アーチャーは必ず返して貰うわよ」
「ふふ、強気で結構なこと」  
「なら、こちらからも休戦の条件として一つ頼みがある」
 それまで黙って二人のやり取りを聞いていた士郎が、真剣な表情で口を挟んだ。
 自然、キャスターの顔も慎重な物に変わって影を差す。
「……言ってごらんなさい」
「街の人達から、魔力を奪うのは止めろ。もう十分に蓄えはある筈だ」
 挑む様な士郎の視線を真正面から受け止めて、キャスターは何を思ったのか、かつてない程に腹すら抱えて笑い出した。
「ふふふふ……面白い坊やねぇ。そんなの条件として持ち出せる立場ではない事を分かっててそんな事を言うのね、この私に向かって」
「……! だから、頼みがあるって言った! あんたにすこしでも人情ってもんがあるなら、今すぐ無関係な人達を巻き込むのは止めるんだ!」
「断ったら、どうするのかしら坊や?」
「……そ、それは……」
 答えられる筈もない。
 それに見合うだけの手札を、手負いの少年は何一つ持ち合わせていないのだから。
 ちら、とランサーは、横のアーチャーを垣間見る。
 アーチャーは無表情の……否、どこか苦々しい表情を浮かべて、二人のやり取りをじっと見つめていた。
 さらにその横の凛は、呆れた様子を隠そうともしていない。
 その何れ反応にか、キャスターは実に満足そうに一つ息を吐いてその長い髪を一度ぱさり、と後ろへ跳ね上げた。
「いいわよ、坊やの可愛さに免じてその頼み、聞いてあげましょう。分かっていると思うけれど、休戦を結んでいる間だけよ。条件として8人目のサーヴァントと聖杯の在り処について新しい情報をそちらが先に仕入れたらこちらに流す、というギアスを受けてもらうけど、問題ないわね?」
 一同はお互いに顔を見合わせ、今はキャスターの提案を飲み込むしか、現状を打開する策はないと理解した様だった。
 皆が硬い表情を崩さないままでいる中、士郎だけはほっとした様に胸をなでおろし、口元を綻ばせた。
「よかった、やっぱりアンタ、根っからの悪者じゃあないんだな」
「勘違いしないで、私は私の為に良いと思ったからそうするだけよ。それに……こうでもなければ私が二人の戦いを止めた意味が無いものね……」
 ず、となかなかに上品な手付きで湯飲みを手にお茶を啜るその姿は、流石王女様の貫禄と言った所か。
「そういや、何だってオレ達の間に割って入ったんだ? それこそ何のメリットも無いってのによ。アンタの事だ、浅い考えだけじゃねぇんだろう?」
 ランサーの言葉にも、キャスターはふふ、と笑みを浮かべるのみで。
「さっきも言ったでしょう、私は私の為に良いと判断した行動しかしないの。その理由まで貴方達に言う必要はあるかしら?」
「いや、ねぇな。あんたがそれで良いってならこっちはそいつに乗じるだけだ」
 やれやれ、と肩をすくめるランサーの小さな溜息が、一先ず話し合いの幕を告げたのだった。


 一先ずは穏やかに一日が過ぎ、傷ついた者達も僅かながら休養を取ることができて夜を迎えた。
 キャスターとそのマスターは自分達の陣地である柳洞寺へと帰り、現在キャスターのサーヴァントとして現界しているアーチャーは見張りを命じられ、屋根の上でじっと目を閉じていた。
 背後には山門。
 そちらにはその場所を守る為に呼び出されたサーヴァントが座しており、アーチャーが注意を払う必要はない。
 あの門を通ろうとする者があれば、激しい戦闘は避けられない。

「よ」
 
 ……訳でもないらしい。
 木の上からそんな軽いノリで手を上げてみせた侵入者――もとい今は来客であるランサーに、アーチャーは呆れも露にじとりと視線を投げかけた。
「……どうやって入ってきた」
 この柳洞寺は、周囲をぐるりとキャスターが結界を展開している為、サーヴァントが山門を通る以外この境内まで入って来ることは不可能なのだ。
 だがランサーは当然の様にその場に佇み、アーチャーに向かって歩みだしていた。
「いや、普通にあのサムライにはオレが今は協力者だって話は通ってたみたいでな、普通に門を潜らせてもらったぜ?」
「そうか……」
 あのサムライ、まさか変な気を使ってランサーを素通りさせたのではと思うアーチャーだったが、おそらくその想像はあってるかもしれない。
 そう考えてる間にも、ランサーはひょい、とアーチャーのいる屋根の上へと飛び移り、その横へと座りこんでしまった。
「一応聞くが、何をしに来た?」
「んー? んなのお前と話しに来たに決まってるじゃねぇか」
「それはそれは、光栄なことで」
「うわ、さらっと流されたし」
 がくり、と肩を落とすランサーの様子に、アーチャーはこっそりと口元を緩ませくすりと笑みを浮かべていたりしたのだが、残念ながらランサーの視界には収まらない。
 しばし俯いていたが、やがて、ふぅ、と一息吐いて顔を上げた。
 その表情はどこか穏やかで。
「キャスターには……ちと感謝しなきゃなんねぇな。おかげでお前とまたこうして話す時間ができた」
「……」
 アーチャーは何も答えず、ただランサーの次の言葉を待っている様だった。
「ふむ、暗いねぇどうも。ま、これでもどうだ」
 言うと、どん、と勢いよく小脇に抱えていた物を前に差し出した。
 よく見れば……いや、よく見なくともそれはいわゆる一升瓶、という奴で。
「日本酒……?」
「おう、坊主んとこの台所にあったのくすねて来ちまった」
「……あの人か……」
 衛宮邸にアルコールなんて持ち込むのは、今のところたった一人ぐらいしか心当たりがない。
 その当人は現在療養中であるが、当のキャスターに命に別状はない事は確認してあるので、目が覚めればいつも通りの元気な姿を見せてくれるだろう。
「って、こ、これはよく見れば龍神○の大吟醸生原酒!?」
「ん? 知ってるのか?」
「あ、あぁ、今やわざわざ酒蔵のある地元まで足を運ばねば簡単には手に入らないと噂の幻とまで言われる名酒だが……」
 こんなものをほいほいと持ってくるとは……藤村組恐るべしと言うべきか、などとぶつぶつ言っているアーチャーはさておき、ランサーはグラスを二つ、手元で揺らして見せた。
「で、どうするよ、今夜は月も綺麗だ。酒の味も格別だと思うが?」
 あまりの用意の良さにか、思わずアーチャーはキョトンとしていたが、やがてやれやれと久しぶりに見る苦笑を浮かべた。
「君に日本の風流を嗜む気質があったとは少々驚いたが、どうせならこういう時は日本の酒器を持ってくるんだな」
 杯とまでは言わんが、と言いつつグラスを受け取とる様子はまんざらでもなさそうで。
「仕方ねぇだろ、あの家にゃそんな気の利いた物ねぇんだし」
「まぁ一応未成年ばかりだからな、あの家は。あっても困る」
「それもそうか」
 などと言いつつ、透明なグラスの3分目程まで酒を注ぐ。
 軽くグラスを合わせれば、チリン、と涼やかな音が耳に心地よい。
 仄かに果実を思わせる甘い香りと味の美酒は、じわりと舌を痺れさせる。
 美味い酒への沈黙は何よりの賞賛。
 感想を述べるは野暮とばかりに、二人は暫し黙ったままただグラスを傾けた。
 美味そうに酒の香りに口元を綻ばせているアーチャーを見て、ランサーは思わず噴出した。
「なんだ?」
「いや、まさかお前となぁ、こんな風に酒を酌み交わせるとは思ってなかったからな」
「……茶ならそれなりに共にしていたと思うが?」
「それと酒とじゃ話が別だ。やっぱり酒は好いた相手とじゃねぇと美味い酒も不味くなるからな」
「まぁ、それには同意するが」
 あ、さらりとアプローチ掛けたのスルーされたっつうか気づいてないっぽい? とがっくり肩を落としつつ、まぁこいつ相手にはこれぐらいでないと、と顔を上げた。
 ふと、そのグラスを持つ手が、不思議とランサーの目を引いた。
「なぁ、手ぇ、見せてくれないか?」
「……手?」
 突然の申し出に、アーチャーがキョトンとしてしまうのも当然というもので。
「おう、その手だ」
「……?」
 躊躇いながらもそろそろと差し出された手を、ランサーはそっと受け取った。
 触れて分かった、ランサーの目を引いたその理由。
 ともすればややごつりとした、大きく所々傷の見える、戦う者の手。
 それは何処か懐かしい、嘗て彼が友と呼び慕った者達と同じで。
「……おい、ランサー?」
何も言わないランサーに戸惑ったらしいアーチャーが手を引っ込めようとするのを、ランサーは逃がさじと握り締めた。
 手を握った勢いもそのままに、するりと指を絡めてしまう。
「お、おい?」
 アーチャーが動揺も露に顔を覗き込んでくるのを、ランサーはくつくつと喉を鳴らしてやさしく、だが少しだけ悪戯を達成した時のような顔で見返し、に、っと口の片端を上げて見せた。
「やぁーっと、手、繋げたと思ってな」
「!?」
 いよいよもって、アーチャーの顔が酒のせいだけでなく赤く染まって行く。
 もっとも、ちょっとやそっとのアルコールでは英霊を酔わせる事など出来ないのだが。
「ら、らん、さぁ?」
 やはり酒のせいだけではなく舌がうまく回っていないらしいアーチャーを言い包めるように、ランサーは言葉を続ける。
「やっぱよ、お前が何を思ってんのか分からないけどよ、好きな相手に触れたいと思うのは当然の事だと思うぜ? 少なくとも、オレはな」
「……」
 そう言って、掴んだままだったアーチャーの手の甲に軽く触れる口付けを落とす。
「お前は、どうなんだアーチャー。 お前はオレを好きだと言ってくれた。それで、それだけか?」
「私、は……」
 答えられずに口ごもるアーチャーに、ランサーはくすりと一つ苦笑を浮かべて息を吐き……
「なら聞き方を変えるぜ。お前は、こうしていて嫌か――エミヤ」
「!?」
 まだ告げていない筈の――知られてはならない筈の名を呼ばれ、アーチャーはただ、目を見開いて硬直するしかなかった。




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